第三話 社交界にて、ムカつく公爵と対峙します

「…見られてますわね」


「びゃ!そ、そそそそそそれ言わないでほしかったなぁ…!あああ、帰りたい帰りたい帰りたい穴があったら入って一生出たくない……!」




わたくし達は公爵家主催のパーティーに出席していました。何時もは絶対社交界に出席なんてしないルカ様ですが、公爵様から直々に、侯爵家次男と新しい婚約者を紹介してほしいとご指名されてしまったらしいですわ。


わたくしは、ルカ様はわたくしの婚約者と世の女性達に牽制の意味でも参加に異論はないのですが……人見知りで社交界がもはやGを食べるレベルで嫌というルカ様にとって地獄への招待状のようなもので……。いやもう本当に連れてくるのが大変でしたわ。まさか位はあちらの方が高いというのに断る訳にはいきませんし。


そしてパーティーに出席したのですが…視線が凄いですわ。恐らくルカ様の美しさに見惚れているのですわね…これは厄介ですわ。ルカ様に惚れた女性がアプローチしたらわたくし、負けてしまうかも…婚約破棄になんてなったらお相手を殺してルカ様監禁エンドか心中エンドに…


「ルカ様、美しいそれはもう美しい女神のような女性にであっても、巨乳のお姉さまに迫られても婚約破棄はしないでくださいまし。愛人にしたいというのなら、まあわたくしを大事にするのを条件にOKしますわ。その愛人様は数日後には無残な姿で遺体になっていると思いますが。」


「君僕のことなんだと思ってるの???心配しなくても僕と愛人になりたいなんて変人はいないよ君以外。あと貴族令嬢が巨乳とか言うもんじゃないよ」


「まあ!わたくしは愛人なんかに収まるきは到底ございませんわ。どんな泥沼な大奥だろうと後宮だろうと貴方様の正妻の座はわたくしのものですわ。あと、貴方様の愛人になりたい方なんて大勢いますわ。ほら、女性方の視線がこんなに。」


「それは君に向けてじゃないの?噂の社交界に現れる精霊姫様が久々に社交界に出席したから。それもこーんな陰湿な男と婚約して。思わず見ちゃうのも仕方ないよ現に男性からの嫉妬の視線で僕消えそうだし。」





――因みにこの会話は認識阻害の魔術をかけているので周りからは二人で見つめ合っているようにしか見えなかったりする――





「おお!来てくれたんですな、ルカ殿と精霊姫。お噂はかねがね。この度は結婚、おめでとうございます。社交に明るい精霊姫が嫁いでくるのならばルカ殿も安心ですな」


「初めまして、ペール公爵様。公爵様に認知していただけるなんて、光栄の極みですわ。」

「ひ、久しぶりですね、公爵殿…」


「おやおや相変わらずですな、ルカ殿は。」


はっはっはと豪華に笑う彼だが、その言葉には所々に侮蔑が混じっているのが手に取るようにわかります。恐らく、今回態々ルカ様をご指名したのは禄に社交ができない彼を人前で恥をかかせ、今勢力を拡大しているトーレス侯爵家の評判を落とすつもりなのかしら。なんて悪趣味なの。周りで同じようにクスクス嗤っている貴族どもにも腹が立ちますわ。


「ああ、ルカ殿、家にも次男がいるんですよ。ビルク、こっちにこい。」


公爵様が呼んだビルク様は随分不機嫌な顔をしています。わたくしを睨んでいる…?いえ、これは…ルカ様を?


「カリナ嬢、お久しぶりです。」

「え、ええ。お久しぶりですわ。」


久しぶり?わたくしたちどこかで会っていたかしら。あっ、この熱をもった瞳…見覚えがありますわ。


ビルク様と出会ったのは確かルカ様と婚約する前まで付きまとわれていた公爵家次男ですわ。かなり強引な方で、もう四六時中あいつに悩まされていたのですが、ルカ様に会って存在を忘れてましたわ。


「ルカ殿と婚約されたのですね。傍から見てましたが随分仲がいい様で。」


「ええ勿論!ルカ様は大切で愛しい婚約者ですわ!」


「おや、カリナ嬢は随分ルカ殿に入れ込んでいるのですな。誰に誘われても靡かなかった孤高の精霊姫と伺っていたのですが。」


公爵様が強引に会話に入ってこられました。


「ええ、ルカ様に出会う前のわたくしはそうでしたわ。ですが!ルカ様は本当に素敵な方ですわ。彼と婚約できて天にも昇る気持ちですの。」


「……カリナ嬢は、こいつのどこがいいんですか」

「!?ビルク、何を言ってるんだ!」


「お前、調子に乗るなよ、カリナ嬢はお前の身分がいいから媚売ってるだけだ。お前みたいな陰気臭い奴に俺が負けるはずがない。カリナ嬢が本当に好きなのは俺なんだ。カリナ嬢、俺の手を取ってよ、婚約者なんて捨てるから、そしたら君は公爵家次男の妻だ、そっちの方が身分は高いよ、宝石でもドレスでもなんでも買ってあげるから」


「いい加減黙れ!おい、そこのお前、こいつを連れていけ!…ルカ殿、申し訳ありませんな。息子はここ最近随分精神を病んでいまして。いつもはこうではないのですが。」


「カリナ嬢!俺は本気だ!」

「ビルク!」


「…わたくし、ルカ様のことは本気ですわ。だから貴方様の手は取れませんの、ごめんなさいね。抑々身分目的なら貴方様の愛人の誘いも受けてますわよ。わたくしはルカ様だから好きになったの。たとえ彼が平民でも奴隷でも、好きになったと思いますわ。」





「まあ、ビルク様、愛人の誘いなんてしていたの?確か彼には同じ公爵家の令嬢が婚約者にいたはずでしたわよね?ペール公爵家の品格が伺えますわ…」

「それより、今婚約破棄と言ったぞ、あれはルーヴェル鉱山の大規模な共同事業の為の婚約だろう!?それを破棄ということは、ペール公爵家はルーヴェル鉱山を独占するという宣言か!?」

「素敵ですわ…カリナ様はあまりにも誘いを断るので色事には興味ないと思っていたのですが。これぞ、真実の愛ですわねえ、感動しましたわ…」

「あの精霊姫が頬を染める所なんて初めて見たよ、きっとルカ様はあの精霊姫の心を溶かすほどの魅力があるのだね。」


貴族たちはそれぞれの感情を言葉にし、好き勝手話します。それにペール公爵は随分顔色を悪くさせました。ビルク様は社交界では割と評判の良い貴公子だったので社交の苦手なルカ様と比較させ評判を落とそうと思って失敗した、って所でしょうか。逆にルカ様の評判が上がってますわ。ま、至高なるルカ様を落としめようとした天罰ですわねえ。ざまあ見ろ、ですわ。…それにしても、さっきから頭痛が酷いですわ。何故かしら。


「ペール公爵、殿。婚約者カリナ嬢が随分と、その、疲れてるみたいなんだ。帰らせて、頂いても、いいだろうか。」


「あ、ああ。すまんな、後日改めて話をしようじゃないか。」



きゃあああ!ルカ様が!あの人見知り目立ちたくないを拗らせまくったルカ様が自分で公爵様に自分で声を!それもわたくしのために!確かに、いえちょっとわたくしの顔色は悪いとは思いますが。あれ、本当に頭痛が…数日間、徹夜したからかしら。ウッ、痛い、ですわ…あっ、めまいが……


「カリナ嬢!?」

「きゃあああああ!!!」

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