第二話 わたくし、愛が重すぎて引かれてないでしょうか

「ルカ様ー!貴方様のお好きな濃いめの抹茶スコーンを焼きましたわー!一緒に食べましょう!」


「えっ、何で僕の好物知ってるの」


「だってわたくしが作ったお菓子を嫌がりながらもなんだかんだいって食べてくれるルカ様のお蔭でルカ様の微妙な表情の変化と食べる速さで分析し極東の国から取り寄せた抹茶を使ったお菓子を特に気に入っている事が分かりましたので!勿論毒も髪の毛も入ってませんわ!愛はいっぱい込めましたが。」


「……うん、そっか、僕はもう慣れたから一切突っ込まないよ。」




婚約してから二ヶ月の月日が経ちました。わたくしはルカ様が住んでいるお屋敷の離れに同居しています。しかも部屋は隣なのですわ!ルカ様はわざわざ日の当たらない奥の部屋を選んでいるようで、


「カリナ嬢は、その、日の当たる部屋の方が良いんじゃない?」

「わたくしも暗い方が好きですの!根は陰キャなので!」

「そのインキャが何かわからないけど絶対カリナ嬢がインキャじゃないことはなんとなく分かるよ。」


というやり取りをしました。


引っ越してからは毎日暗い部屋で魔術本を読んだり新しい魔術式を開発して碌に食事を取らないルカ様に食事を運んだり自分の体質でルカ様の研究に力添えしたり愛を伝えに行ったりしています。迷惑をかけている自覚はあるのですが、衝動で動いてしまうのですわ。


「はああ。やっぱり迷惑なんでしょうか…」


「あれ、カリナ嬢?」


「まあ、アレク様!お久しぶりですわ!珍しいですわね、離れまでお越しになるなんて。」


「ちょっと時間が空いたからね。それで、いつも元気な君が溜息なんて何かあったの?まさか弟がなにか…」


「いいえ!ルカ様にはとてもよくして頂いてもらってますわ!毎日ルカ様のところに押しかけ愛を込めて作った料理を朝昼晩食べさせ、ルカ様への愛の言葉を囁き、勝手に研究のお手伝いをして尊いルカ様の生活圏に入り込んでいる自分を追い出さず構ってくれるルカ様は本当にお優しいですの」


「……そ、そっか。じゃあ何に悩んでいるんだい?」


「いえ…ルカ様にとってわたくしは迷惑なんじゃないかと思いまして…わたくし、その、しつこいでしょう?愛も重いですし。お優しいルカ様はわたくしに気をつかって下さっているのかな、と。あともし内心ルカ様がわたくしを嫌っていた場合もうショックでルカ様を監禁してわたくしを愛するように洗脳してしまうかも…」


「君本当に愛重いね。…ルカは君のこと嫌ってないよ。寧ろ好いてる方だと思う。」


「…気を使わなくて構いませんわ。わたくしがルカ様に好かれる要素なんてないですし…」


「……ルカはね、昔からあんな性格だったんだよ。特にあのネガティブさと独り言がね。貴族にとってそれはマイナスでしかなかった。僕も父も直そうとしたよ、弟が社交界で浮かないように。結果、もっと拗らせてしまった。僕たちはルカのありのままを受け入れてあげられなかったんだ。でもルカは優しい子だからせめて独り言をどうにかしようと魔術の訓練に励んだんだ。でも、それでもルカのありのままを受け入れてくれる人は現れなかった。君以外はね。だから、ルカは照れ隠ししてるだけだよ。君のことは嫌いじゃないと思うよ。……恋慕はあるかどうかわかんないけど……」


「…ありがとうございますわ、アレク様!わたくし、嫌われていた訳ではなかったのですね!わたくし、いつかルカ様に好きだと言わせてやりますわ!」


さっきとはうってかわって急にルンルンと鼻唄を謳いながら「ルカ様に何をお持ちしようかしら」と機嫌良く歩いていくカリナの姿に、アレクはふふっと笑った。

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