陰キャなネガティブ魔術オタク様と婚約しましたが、彼がドタイプすぎて毎日が辛い
@kumanonn
第一話 ルカ様に一目惚れしてしまいました
「無理無理無理…いや無理でしょこんなの。なんで僕がこんな社交的な美少女と婚約しないといけないの何かの恋愛小説的展開か?いやそんな展開いらないから家に帰してよここめっちゃ明るい……カーテンでしめきった自室にこもりたい…でもきっとこの人との婚約断ったら殺されるだってこんな美少女と結婚できるチャンスをこんな引きこもりのキモイ魔術オタクが断るなんてあっていいはずがないんだからファンに殺されちゃうよあああせめて、せめて死ぬ前にあの文献の魔術本買っとけばよかったな…」
「……」
わたくしは目の前でさっきから一人で聞き取れない声量(もっとも、耳の良い自分には聞こえるのですけど)でぶつぶつと爪を噛みながら喋ている青年を茫然と見つめました。
青年——侯爵家の次男、ルカ・トーレス様はこの度子爵家のわたくしと婚約することになったのはつい数週間前のこと。伯爵家から成りあがった現在勢いのあるトーレス侯爵家の、次男とはいえ子爵家などという格下の自分と婚約なんて夢のような展開に何度も父に確認したのを覚えています。まるで前世読んだ異世界小説みたいな展開に。
わたくし、カリナ・ハーバードには前世の記憶があります。三歳の頃突如思い出したのです。大量の記憶が突然頭に流れ込んできてキャパオーバーし高熱で目を覚まさなかったのはいい思い出ですわ。両親にはとても心配をかけたようですけれど。
まあ、そんなこんなでなんにでも手を付ける雑食系二次元オタクだった前世をもつわたくしは、この転生はそれほど苦ではありませんでした。魔法なんてファンタチックな力があるからか中世ヨーロッパみたいな時代なくせして変な所は発達していますし、貴族だから生活には困らないし両親は優しいですし社交界で話題になるほどの美少女顔ですしね。ネットがないのは少々、いやかなり苦でしたけど。
そんな人生を謳歌していた自分に来た婚約の申し出をわたくしは喜々として承諾しました。いえ、わたくしこのルックスと顔なので無駄にモテて…特にここ最近身分が高い公爵家の次男に惚れられて愛人にならないかと身分を盾に迫られ困っていたもので。顔が良いというのも考えものですわ。
婚約が決まってからは顔合わせまで色々情報を集めました。相手はひきこもりで社交界に滅多に出ず、しかし魔術オタクで有名で、よく侮蔑の対象として貴族たちの体のいい噂話に利用されているとか。そんな情報を聞いてオタクな自分には良い縁談かもしれないと思いましたわ。自分は陽キャに擬態した根は陰キャなので。体の関係は迫られないでしょうし。多分。
……そんな事を思っていた時期がわたくしにもありました。
目の前の青年をもう一度じっくり、ええ、穴が開くほどじっと見つめますわ。彼がひえっと小さく叫んだが知らないし聞こえないのですわ。わたくしは今彼を見つめるのに忙しいのですから。
濃い黒色の長くてぼさぼさの髪に青色の生気のない瞳。目の下には濃い隈。高身長で、尚且つイケメン。これは……これは……!
「やばいですわ、滅茶苦茶ドタイプですわ…!」
「へ?えっ、今美少女が喋った部屋に入ってから喋んなかったのにていうか今貴族令嬢が使う言葉使いではない言葉と単語が聞こえたきがする。えっ気のせいかな気のせいだよねそうだよね。だってドタイプって…あああ勘違いするところだったこんな美少女が僕なんかをキラキラした瞳でうっとりしたようにこっちを見ながらそんなこというはずがないうん気のせいだ妄想が過ぎたな、カリナ嬢に失礼だよねうん。僕みたいで地味なオタクがこんな美少女に惚れられるはずがないんだか「地味とか言わないでくださいませ!」!?」
「ルカ様はとんでもなく魅力的ですわ!そりゃあもうわたくしがかすむくらいは!顔の下にある濃い隈とぼさぼさのいかにも手入れしてない髪!そしてその長く早く自虐の入り混じった独り言…!これぞ正に完成された陰キャネガティブオタクイケメンですわ…!わたくし陰キャオタクには会ったことありますがここまでの美形には会ったことありませんし、三次元の殿方にときめいたのなんて人生初ですわ!ルカ様は素晴らしき陰キャです!自分を下卑する必要は一切ありません。そんなところも素晴らしいですが。」
「あれこれ僕褒められてるの貶されてるのていうか僕の話聞こえてたの魔術かけてたのに。」
「褒めてますわ!それよりも言語の認識阻害魔術をかけていたのですの!?凄いですわそんな高度な魔術を誰にも悟られずに展開するなんてっ……!益々惚れましたわ!でもわたくしは魔術が効かない体質なんですの。勝手にお話を聞いたことは謝りますわ…」
「えええ…魔術が効かない体質って超レアじゃん…益々意味が分からないんだけど。なんでこんなハイスペックな人と婚約なのやっぱりこの話は無かったことに「いやですわ!」…」
「わたくし、ルカ様に惚れましたの!おこがましいほどにも程があるとは分かっていますが、それでもわたくしのこのときめきは嘘じゃありません!好きですわ、ルカ様!どうかわたくしと結婚して末永く地獄の果てまで一緒にいてくださいまし!」
「いや愛重っ、ていうか近いよ離れてようわあ綺麗な顔が眼前にあるし手握られて愛の告白とか何、そんな展開望んでないよ僕は一生一人がお似合いなんだから。」
「……えっ、何この状況。」
唐突に第三者の声が聞こえそちらを見ます。そこには
「アレク様!わたくしルカ様に一目惚れ致しました!早速ですが、まだわたくし達の婚約は正式には成立させていませんわよね!?できれば今すぐに婚約、いえ結婚したいのですが!」
「なに言ってるのカリナ嬢。えっ、うそうそ冗談だよねやめてよ兄上、僕はずっと独身がいいよこんな美少女と結婚とか嫌だよやめてよ心臓がもたない」
アレク様はぽかんとした顔をしていました。気さくで優しげな雰囲気を持つ彼ですが、次期侯爵の教育を受けているだけあってポーカーフェイスが得意な印象を受けたのですが。その様子にさっきから興奮していた熱がほんの少しだけ冷め、首を傾げて彼を見ます。
「……そっか、ふふっ、良かったね、ルカ。君の事をこんなに熱烈に愛してくれる女性に出会えて。いいよ、さすがに今すぐに結婚は無理だけど婚約は成立させよう。」
「ありがとうございますアレク様!」「ハイッ!?兄上なに言ってるの!まって正気嘘でしょ何でよこの世に神なんていないぃぃぃ…」
アレク様に満面の笑みでお礼を言うとまた苦笑されます。不本意そうなルカ様には悪いが自分は彼に惚れてしまったんです。絶対離すもんですか。こちとら前世の心理占いでヤンデレ度八十%の女ですわよ?
「ルカ様、愛していますわ!」「あああああ…!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます