ネクロノミコン
小噺らいと
introduction
―――もう十一月、流石に寒くなってきたな。
同じ時間、同じ道、同じ景色。すっかりルートが体に染みついた、いつもの通学路を辿りながらそう考える。冷えて赤くなり始めた指に白い息をはあっと吹きかけ、歩くスピードをほんの少しばかり上げる。
俺が通っている
坂を上り切り、校門を
「今日はいつもより早いな、
「寒かったから急いだだけさ。明日からは手袋が必要だな」
後ろの席の
行きと同じ道を通って自分の家に帰る。学校から徒歩20分、川越にでも建っていそうな、武家屋敷風の自宅。庭には桜の木が一本生えている。三年前に両親が事故で亡くなった後、遺してくれた屋敷と莫大な遺産で日々暮らしている。何でも先祖がここ一帯の大地主だったらしく、かなり古い家柄らしい。
学ランから青地に白いラインの入ったジャージに着替え、外に走りに行く。昔から毎週水曜日は走ると決め、一度も破ったことはない。
普段の通学路を走り、学校を通過する。一瞬ちらりと見えたグラウンドでは、まだ運動部が練習を続けていた。
普段は住宅街の中を走るのだが、今日は気分を変えて丘の方へ行った。丘の頂上からは街全体を一望できる、絶景スポットだ。この街が「光夜市」というのは、この丘から町を見ると、夜景が美しかったからだといわれている。俺が頂上に着いたのはまだ夕日の沈みきっていない頃で、街の明かりもぽつぽつとまばらにしか点いていなかった。
ショルダーバッグからタオルを取り出し、額に浮かんでいる汗を拭う。少し休憩をしたので、そろそろ帰ろうとしたその時、俺は地面に落ちていた「その本」に気が付いた。
近くのベンチにそっと置き、隣に座ってよく観察する。ハードカバーの表紙は、くたびれた焦げ茶色の皮製。Necronomiconと大きく書かれている下には、簡単に開かないように金属の留め具が付いている。著者は書かれていない。
「
拾い上げた瞬間、本を握っている右手の指先から肩にかけて、焼けるような痛みに貫かれた。思わず本を落としかけるが、幸い痛みがすぐに引いたので持ちこたえた。
こんなところに放っておくのも良くない気がしたので、近所の交番に届けようと本をカバンに押し込んで丘を下った。
一気に20キログラム以上の増加で、帰りはなかなかハードであった。すっかり遅くなってしまい、街中に暗幕が垂らされたような夜に包まれてしまった。
次の更新予定
2024年10月30日 20:00 毎週 水曜日 20:00
ネクロノミコン 小噺らいと @mint_cool
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