第12話 友人と恋バナと

「夏紀ー、何してーんの?」


 休み時間、次も同じ教室なのでスマホを特に何も考えずいじっていると恵都が来てその様子を覗き込んだ。

 夏紀はスマホを閉じて恵都の方を見た。


「おや? 俺が来た瞬間にスマホを閉じるということは......もしやそういうのを見てた?」

「そんなもん見てない」

「別に俺は何とは言ってないんだけど?」


 恵都は右隣の空いている席に座った。

 そしてニヤニヤとしながらこちらを見ている。

 その表情を見て苛立ちを覚えた夏紀は無言でジトーっと恵都の方を見返した。

 すると、冗談冗談、と言って恵都は笑みを浮かべた。


 恵都の言葉は事実でも何でもなくただの推測。

 ただ、友人が話しかけてきたから意識をそっちにやろうと思ってしまっただけであってやましいことはない。


「ていうか月曜って疲れるよなー、まだ二時間しか終わってないんだぜ」


 そう言って恵都は机にダラーっともたれかかる。

 

 たしかに月曜日は夏紀にとっても憂鬱だ。

 しかし何だかんだ言って金曜日になると一週間って案外すぐだなと思うようになる。

 その繰り返しである。


「わかる、でも学校は楽しい」

「......なんかお前、ついこの前までそんなこと言うタイプじゃなかったのに。あ、失恋から立ち直ったか」

「ああ、時間が解決してくれた」

「なるほど、よかった、笑顔が大事だからな」


 夏紀は特に何も考えずにスラリと、楽しい、という言葉を発していた。

 以前まで学校が憂鬱で早く帰りたいと思っていたほどだったというのに変わったと自分でも思う。

 

 そして何が楽しいのか、という疑問が浮かんだ時真っ先に静音との記憶が頭に浮かんだ。

 学校が楽しいというより静音と過ごす日々が楽しいのかもしれない。

 

 (最近、俺、ちょっと変だよな)


 一度、したことがある恋の感情に似た何かを静音に抱いている気がする。

 しかし立ち直ったとはいえ失恋したのは比較的最近ですぐに別の人を好きになるはずがない。

 それに好きかと言われれば何となく違う気もするのだ。

 おそらく親友に対して抱く感情なのだろう。


「そういえばさ、まだ先だけど四連休あるじゃん?」

「え、そんな連休あるのか?」

「おん、あるんだけど、その日にクラスみんなで遊ぼうって話してるんだけどお前も来る?」


 恵都は夏紀にそう提案する。

 

 (クラスのみんなで......か)


 夏紀はインドア派だが友人と遊ぶことは嫌いじゃない。

 しかしクラスで遊ぶとなるとまた話は別になってくる。


「......悪い、俺はいいわ。ちょっと用事あるかも」

「ん、まじ? 日程はみんなで調整する予定だけど」

「しかもほら、俺が行っても盛り上がらないっていうか......恵都以外に仲良い人いないから」

「行ったら受け入れてくれると思うけどなあ。でも行かないっていうなら強制はしない。気が変わったらまた言ってくれ」

「わかった、誘ってくれてありがとう」


 夏紀はそう言って笑みを浮かべた。

 行かないが誘ってくれるだけでも純粋に嬉しい。

 

 もし、夏紀がクラスに馴染んでいたらわいわいとした学校生活を送れていたのだろう。

 そんな青春も作れていた世界線があったかもしれない。

 しかし夏紀はそれを選ばなかった。

 夏紀自らみんなと仲良くなることを拒否した。

 だからそう言った遊びには行かないし、体育祭後の打ち上げといったものも行っていない。


「今から怒られそうなこと言っていいか?」

「......急にどうした? 内容によっては怒らない」

「うーん、なら言おうか迷う」

「言わなくても怒る」

「理不尽......いやー、さ、お前って結構内向的で誰とも関わろうとしないタイプじゃん? で、俺がお前と仲良くなったのも正直偶然が重なったからじゃん?」

「それはそうだな、入学式の時に同じクラスで俺の前の席だったり、休日によくバッタリ会ったりとかが重なって距離が縮んだ気がする。今も同じクラスだしな」

「でもさ、そういうのがない限り自分から関係深めようとしないじゃん? だからよく彼女作れたなって」

「......怒っていいか?」

「待て待て、人に言わせといてそれはひどい」

「冗談はおいといて、たしかにそうだな......んー、なんだろうな。ほら、話しやすい人っているだろ?」

「いるな、一緒にいて楽な人」

「強いて言うなら元カノの場合がそれだったから、かな」


 なるほど、と恵都はつぶやいて机から起き上がる。


 元カノを信じれた理由は一緒に話していた時の言動もあるし、性格の面もある。

 最初はただ話す程度の仲だった。

 しかしコミュニケーション能力の高い由花がよく話しかけてくれて女友達の認識に変わった。

 そこから時間が由花への信用を作ったのだろうか。


「そういえばあの子とも仲良いよな、何組か忘れたけど前一緒に帰ってたじゃん」

「静音か、たしかにたまに一緒に帰ってる」

「好きなの?」

「......違う、幼馴染なだけだ」


 夏紀は恵都の質問を否定する。

 しかしなぜかすぐに言葉は出なかった。


「あー、なんか前言ってたな」


 恵都がそう言ったところで休み時間の終了を告げるチャイムが鳴る。

 じゃあな、と言って恵都は自分の席へ戻って行った。


 (静音のことが好き、か。そんな訳......ないよな)


 心の中で再度否定して、授業の準備をすることにした。

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