第10話 終わりの始まり
「学校疲れたな......」
休み時間、廊下にて夏紀はため息をつく。
木曜日が一週間の中で一番疲れる日と言っても過言ではないかもしれない。
金曜日は明日休みということで頑張れるが木曜日は一番疲れたが溜まってやる気もちょうどなくなる曜日だ。
それに木曜日は基本座学で楽しい授業もあるわけではない。
そのため、普段より一日が長く感じてしまう。
ただ、いつもの木曜日よりかは精神的に楽に感じる。
それはある程度素で接せれる余裕ができたからだろうか。
せめて小さい頃からずっと一緒にいる静音だけでも信用したい、そう思った。
夏紀は信じようとしてもすぐに疑ってしまい、決めつけてしまう。
だから自分を変えようと思った。
(人に取り繕うなって言っておいて自分は猫被るって最低だしな)
「夏紀っ!」
そんなことを考えながら、次の教科の教室へ向かっていると静音の声が後ろから聞こえてきた。
聞こえてきてすぐに肩に少し強い振動が伝わる。
「次、移動?」
「ああ、そっちもか」
「うん、うちらは次体育」
夏紀と静音は会話をしながら歩調を合わせて廊下を歩いていく。
「なんか最近、夏紀の顔明るいね」
「ん、そうか? いつも通りだと思うけど」
「やっぱり夏紀は明るい方がかっこいい」
そう言って静音はイタズラっぽい笑みを浮かべる。
いじりとわかっていても女子から言われてしまうとどうしても照れてしまうものだ。
「お世辞はやめてくれ、静音からかっこいいって言われても何も思わないし」
「とか言いながら顔赤くなってるよ?」
「......うるさい」
そう言って夏紀は静音の横腹を軽く突いた。
しかし静音はニマニマと笑っている。
いつのまにか夏紀もつられて自然と笑みが出ていた。
おそらく静音の素の笑顔に感化されたのだと思う。
(孤独だった時も、隣にいたのは静音で、苦しい時も辛い時も、もちろん楽しい時も思い返せば隣にいた気がする......)
そんな風に思っていると段々と静音の笑顔が特別なものに見えてくる。
いつもと変わらないのに、何故だか夏紀の体は火照っていた。
「ど、どうしたの......? そんなに見られると恥ずかしんだけど」
「あ、えっと、何でもない。じゃあ俺こっちだから」
「わかった、ばいばい」
夏紀はそう言って静音とは違う方向に歩き出す。
(......今日の俺、なんか変だ)
道中、夏紀の心臓はいつもより早く鼓動を打っていた。
***
「落ちてるといいんだけどな」
放課後、夏紀は早足で校舎裏へと向かっていた。
財布を無くしてしまったからである。
校舎内を探したりしたもののなかったのでもしかしたら昼休みにいた校舎裏にあるかもしれないと考えていた。
むしろあってなければ困る。
(大金入れてはないけど、大事なものだし無くしたくないよな)
そうして校舎裏に行くために曲がり道を曲がろうとした時、聞き覚えのある声が夏紀の耳に入ってきた。
「ねえ、みっくん、話って何?」
「あのさ、聞きたいことがあって呼び出したんだけどさ.....」
夏紀はチラリと覗き見ることにした。
すると、由花と今由花と付き合っている先輩が向かい合って立っている。
少しタイミングが悪かったようだ。
由花とは鉢合わせたくないが、財布は回収しておきたいので夏紀は二人が立ち去るのを待つことにした。
「あのさ、この写真......これ、どういうこと?」
「え、いや、それは友達と遊びに行った時の写真......」
「じゃあ、これは? 去年のクリスマス。実家帰るからって言ってたけど帰ってないじゃん。これ友達じゃないよね」
そんな話が聞こえてきて夏紀の動きは止まる。
(これ、もしかして......由花の浮気がバレた?)
無論、夏紀は先輩に言っていないし、言う気もなかった。
そもそも、もう関わりたくなかったからだ。
夏紀にとってはもう関係のない話、しかし夏紀は聞き耳を立てていた。
「それは......」
「他にもある、しかも全部同じ人。はっきり言って浮気してたよね」
「......」
「前々から怪しいとは思ってた。けど俺は由花を信じたかった」
「.....ご、ごめん。で、でもその人とはもう会ってなくて」
「そういうのいい、もう別れよう。由花とはもうやってけない」
先輩は怒りを含みながらも少し悲しそうな口調で由花にそう言い放つ。
しかし由花はそれを受け止めることなく、去ろうとする先輩の腕を掴んだ。
「ま、待ってよ、本気なのはみっくんだけ......ごめん、正直に言うとその子とは遊んでた。けど本気なのはみっくんなの! みっくんだけなの! 私が好きになったのはみっくんだけ! お願い、やり直さない?」
由花の必死の懇願に聞いている夏紀も気分を悪くする。
夏紀との恋愛が遊びだったのか本気だったのかは分からないが二股していたという事実は変わらない。
「遊んでた......? 俺とは本気なのに? 余計無理、冷めた」
「ねえ、お願いもう一度考え直して......」
「何でお前が泣きそうになってるんだよ。泣きたいのはこっちだっつうの。俺は本気だったのに、お前は本気じゃなかった。じゃあ俺ともう付き合う必要ないだろ。その男と仲良くしとけ」
先輩は掴んでいる由花の手を振り払った。
そして去っていく。
由花は膝から崩れ落ちてただ先輩の行く方向を眺めていた。
(そりゃ、振られるよな......)
そんなことを考えながら、ただ意味もなくスマホを開こうとポケットから取り出そうとする。
しかしスマホを取ろうとした途端に滑ってしまい、スマホは地面に落ちた。
その音が聞こえたのだろうか、由花はこちらを向いた。
案の定、目があってしまう。
「......悪い、全部聞いてた」
「ごめん、夏紀と付き合ってる時、私浮気してた」
由花は怒ると思っていたが振られたショックからか、か弱い声で謝る。
そんな由花に対して夏紀は何の感情も抱かなかった。
もう他人として見ているのだろう。
由花に関することに構っている暇はもうない。
「そっか、俺には関係ないけども」
「怒らないの......? まさか知ってた?」
「......知ってた、別れたすぐ後に先輩と仲良さげにしてるところを見たからな」
「もしかして言ったの?」
「いや、違う、そもそも言う気すらなかった。けど言ったところで悪いのはどっちだって話だけどな」
「......あっそ」
由花はそう言って夏紀から視線を逸らす。
そして体育座りになって顔を隠した。
もう去ろうかと思った時、夏紀に頭に疑問が浮かんでくる。
最後にそれを聞くことにした。
「なんで浮気したのか聞いてもいいか?」
「......先輩の方が好きだったから」
「いつぐらいから?」
「最初から夏紀とは遊び、ずっと好きだったのは先輩」
由花の口から夏紀にとっては衝撃の事実を伝えられる。
しかしそれでも不思議と驚くことはなかった。
「夏紀に告白したのは罰ゲーム、でもバラすタイミングなかったし、先輩と付き合える可能性も低かったしもう良いやって思ってた」
「けど先輩と付き合えてしまったと」
「そういうこと、でも急に別れたら怪しまれちゃうからバレないようにゆっくり別れるつもりだった。けど結果バレちゃった」
声を震わせながら由花はそう言う。
さっさと別れを告げればよかったのに、そう思えるのは夏紀が由花に対して何の感情も抱いていないからだろうか。
「......じゃあな、由花」
夏紀は由花にそう告げた。
これでもうすべて終わり。
前のような生活に戻ってしまう訳だ。
たとえ嘘だったとしても由花と過ごした日々は楽しかった。
少しの間だけ昔のような自分に戻れていた。
ありがとうは言う気はないが感謝をしている部分はある。
そして踵を返して帰路についた。
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