第7話 過去の記憶

「夏紀、明日夏紀の家で勉強会しない?」

「って言ってもいつもどうせゲームしかしてないだろ......別にいいけど」


 私と夏紀は幼稚園からの幼馴染だった。

 友達はある程度いても私の側にずっといたのは夏紀で他の人に抱くものとは違う特別な感情があったと思う。


 (なんか、最近胸がおかしいな......何でだろ。体もちょっと熱いし......)


「ん、どうした?」

「ごめん、ちょっと考え事してた」

「......顔赤いぞ? 熱でもあるんじゃないか?」

「そう? 別に大丈夫だよ」


 何をするにもずっと一緒でこれからもずっと一緒にいられると当時の私は信じて疑わなかった。

 多少、接する機会が少なくなっても会ったら話は弾むし、そんな夏紀と過ごす日常がかけがえのない宝物だった。

 当時の私はそのことに気づいていなかったけれど今の私のとっては宝物。

 

 そして高校一年生の四月、私は夏紀と同じ高校に入学した。

 頭は夏紀より悪くて、受験は少々大変だったけど夏紀と同じ高校に通えると思うと頑張れた。


「あちゃー、クラス別になっちゃったか」

「だな、同じクラスが良かったんだけどな」

「大丈夫? 私がいなくても」

「あのな、俺は静音が思っているよりコミュ力ある......いや、無理かも」

「あはは、何か困ったら相談乗ってあげるから」


 残念ながらクラスは別になってしまった。

 けれど幼馴染だし、またどこかで話せるだろうと思っていた。

 しかし思ったようにはいかなかった。


「夏紀、今日一緒にご飯食べ......」

「静音ー! 今日もみんなでご飯一緒に食べよ!」

「え? あー、今日は......」


 気づいたら夏紀は私の視界から消えていて、話せずじまい。

 そんなすれ違いが続いてしまった。

 私は勉強はできなくてもコミュ力はある方だと自負していて一週間程度でクラスには馴染めた。

 しかしそれでも毎日のように話していた夏紀とは疎遠になってしまったので心の隙間は埋まらなかった。


 (......夏紀ともっと話したいな)


 廊下で会っても挨拶をする程度で全然話せていなかった。

 充実と思える学校生活を送りながらも頭の片隅では夏紀のことを考えている。

 おそらくこの時点で夏紀に対するある想いがあったのだと思う。

 けれど幼馴染だからかそれに気づいていなかった。


「それじゃあそろそろ委員会を決めようと思います......」


 転機が訪れたのは学校が始まって二週間くらい経った時。


 (こういうのやってみようかな......大変そうだけど一回やってみたいな)


 そう思って委員会に入ったのがきっかけだった。

 

「あ、あれ、夏紀?」

「静音じゃん、静音も同じ委員会入ったのか」


 昼休みに行われた委員会の集まりで偶然夏紀と会い、同じ委員会に入ったことがわかった。

 クラスが離れていて今まで話せなかったけど接点ができてまた話す機会が増えた。


「学校生活どう? 友達できた?」

「いや、できてない」

「なるほど、相変わらずだね......じゃあ好きな人は?」

「いると思うか?」

「絶対いないと思う」


 夏紀との会話は前よりも楽しいものに感じられた。

 それと同時にある想いを抱え始めた。


 (さっきから胸がおかしい、ドキドキしっぱなしだ、私......夏紀と話してるだけなのに何でこんなに緊張してるんだろ)


「そういう静音はどうなんだ? 好きな人とかできたのか?」


 (これが恋......? いや、でもそんなはず......)


 人生で今まで経験したことのなかった感情に私は戸惑うばかりだった。


「......い、いないよ。恋とかよくわかんないからさ」

「ん? ちょっと間があったけど......ってことはいるってことか」

「いやいや、いないから!」


 中学時代、夏紀と仲良くしていたのでよく女子に揶揄われた。

『好きなの?』とか『もう付き合っちゃいなよ』とかそういった言葉を言われていた。

 そんな想いはないので適当に返していたがその時の私が同じことを聞かれていたら間違いなく動揺していたと思う。


 この頃からだろう、本格的に自分の好意に気付いたのは。

 けれど私は遅すぎたのだと思う。

 すべてが遅れていて気づけば夏紀は静音の目の前から消えて遠い存在になっていた。


 もし私がもっと早く自分の感情に気づいていたら未来は変えられたのだろうか。


 ***


「ん、うう......」


 朝、机の上のアラームが鳴ったので寝ぼけた頭でアラームを消す。

 そして目を擦ると自分の目から涙が流れていたことに気付いた。

 

 (やっぱりそうだよね、簡単に忘れられる訳ない......現に夢として出ちゃってる)


「もっと早く私が自分の感情に気づいてたら夏紀の側に立ってたのは私......だったのかな」


 胸に残っているのはそんな後悔。

 もう夏紀と付き合える可能性はほぼ0に等しいのに、諦めきれない自分がいる。


 カーテンを開けるも空は雲で覆われていて太陽の光は部屋の中に入ってこなかった。

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