第6話 恋バナ

「......これどうやって解くんだ」


 日曜日の昼過ぎ、夏紀は一人黙々とスターバックスで勉強をしていた。

 

 もうすぐ中間テストなのでその対策をする必要があるのだ。

 しかし家では妹の友達が来ていて騒いでいるので集中できそうにない。

 故に近くのスタバに足を運んで勉強しているのだ。

 正直、誰かを誘って一緒に勉強することに夏紀は少々憧れているが誘うような友達もいない。

 

 (静音誘っても良かったけど......とりあえず一人で勉強しよう)


 異性の友人を誘うのは少し気が引ける。

 幼馴染なので今更気にする必要はないと思うのだが一度距離が離れてしまったからか遠慮ができてしまった。


 そんなことを考えていると動かしていたペンが止まってしまっていたので夏紀は切り替えて集中する。

 

「あれ、夏紀?」


 スタバに来て数十分立った頃だろうか、聞き覚えのある声が夏紀の耳に入ってきた。

 振り返ればバッグを持った静音が夏紀の後ろに立っていた。


「偶然だな。友達と来てるのか?」

「いや、見ての通り私一人だよ。流石に勉強しようかなって......夏紀も勉強?」

「ああ、家だと集中できなかったから」

「そっか、じゃあ一緒に勉強しない?」

「ん、そうだな」


 夏紀が承諾すると、静音は夏紀の隣に座る。

 そしてバッグの中に入っていた教科書を取り出して、勉強を始めた。


 静音が心境に勉強に取り組んでいる姿は見慣れないもので過去との相違を感じる。

 昔の静音は大の勉強嫌いだった。

 同じ高校を受けると分かって一緒に勉強会をした時もほぼほぼ机にもたれかかっていた。


「......そんな熱心に勉強する性格だったっけ。中学まで全然勉強してなかっただろ」

「あー、たしかに昔はそうだったね。高校の方の最初の中間でも赤点ギリギリだったし。高校受験も運良く受かったみたいなところあるし」

「勉強なんて知るかー、とか言ってたしな」

「そうだね、過去の私はそう思ってた......けどなんか......と、とりあえず勉強頑張んなきゃなって思ったの!」


 人はそんな簡単に変われるものなのだろうか。

 何かきっかけがあるのかと思ったがどうやら危機感を覚えたかららしい。

 中学時代、あれほど勉強を嫌っていた静音の姿はどこに行ってしまったのだろうか。

 少し信じがたいが事実として静音は今、熱心に勉強に取り組んでいる。


「まだ勉強は嫌いなんだけどね。勉強してるって言っても勉強始めてるのはテスト二週間前くらいからだし。夏紀みたいに継続して勉強は無理」

「......虚しいことに友達あんまりいないし俺はやることないからな。やりたくてやってる訳じゃない」

「あー、そっか、彼女とも別れちゃったもんね。余計にやることないよね」


 静音は少し笑顔を浮かべながらそう言った。

 心の傷も流石に回復しているのでそれを見越してのいじりらしい。


「心の傷を抉るんじゃない。そもそも彼氏いたことない人に煽られても効かない」

「なっ......これから作るし! ......いや、まず私は男子と今まで通り話さないとか」


 静音は男性に対して恐怖を覚えている。

 故に彼氏云々以前にまずはそれを治さなければならない。


「あー、最近どうなんだ? まだ怖いのか?」

「ううん、ちょっとずつだけど前よりはマシになった。夏紀以外の友達にも言ってみてさ、治ってきてると思う......あの時聞いてくれてありがとね、ずっと一人で悩んでたからさ。精神的にも大分スッキリしてる」

「ん、そっか......なんかあったら言ってくれよ」

「うん、そうする......男性は苦手になっちゃったけど恋愛はしてみたいっていう矛盾。優しい彼氏欲しい」

「なら、高校で作るにしても今年中に作らないとまずいんじゃないか? 三年生は受験で忙しいだろうし」

「うっ......」

「でも、静音結構可愛いしできないことはないだろ」

「そ、そう? ......ありがと」


 潤んだ綺麗な瞳に、比較的長いまつ毛。

 そしてサラサラとした黒髪、昔から変わらないショートヘア。

 しかしそれでも成長と共に大人びた雰囲気を持つようになっていった。


 夏紀としては静音は可愛いと思っている。

 その上に明るくて暖かく、優しい性格の持ち主。

 

「高校入ってから告白されたのか?」

「二回......告白されたかな。断ったけど」

「とりあえず好きな人がいない限りはできないかもな」

「それもそうだよね......ち、ちなみに夏紀はいるの? 好きな人」

「彼女と別れたばっかなのにそれ聞く?」

「......流石に冗談。そもそも夏紀に最近まで彼女がいたって事実が驚き」


 静音はたまに棘のある言葉を投げつけてくる。

 それもわかって言っているのだから悪質だ。


「静音は? 好きな人いるのか?」

「私は......好きな人いた、かな」

「過去形ってことは今は好きじゃないのか?」

「最近、やっぱりまだ好きなのかなって思ったけど......正直、わかんない。クラス違うしでもう諦めた方がいいのかなって」


 高一の時にクラスが一緒で好きになったが高校二年生で別クラスになって関係が遠くなり想いが薄れた、などだろうか。

 何ともいえない話だ。

 よく聞く話で仕方ないとはいえ心が痛くなる。


「俺はほぼいないしコミュ力ないから協力はできないけど......頑張れ」

「そうだよね......訳ないよね」

「ん? すまん、なんて言った? 聞き取れなかった」

「ううん、何でもない。相手はどう思ってるんだろうなって。割と鈍感な人だからさ......って話はいいから勉強するよ」

「それもそうだな」


 心痛くなる話を静音はしていたが先ほどよりも静音の顔は明るくなっていた。

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