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 僕は、指定された駅前で着替えなどが詰まったボストンバックを手に待っていると、ニコニコ手を振りながら真莉がやってきた。


 スラリとした長身が印象的な彼女は昔と何ら変わらなかった。サラサラのロングヘアと縁無しメガネがトレードマーク。


「拓磨、今も変わらずじじ臭いね」


「5年ぶりに会って、いきなりじじ臭いはないよ」


 まぁ、確かに真莉の様にモデルみたいな女性からすれば、確かに僕はじじ臭いかもしれないが、久しぶりに会っての初めの一言はあんまりだ。


 そんな、僕の気持ちも知らずに、真莉は僕を舐めるように見ると


「ははぁん……会社は、そこそこ大きい……それで、どこかの主任か係長で下にこき使われているってところだな……」


 と、ブツブツいいながら、僕を分析し始めた。


 僕は、的中しているのが気に食わないので思わずイラッとして


「真莉!

 いい加減な当て推量はやめてくれないか?」


「なら、違うの?

 身なりは、そこそこにお金がかかっている。そのボストンバックだって、安物じゃないけどそれなりのメーカー。それから、判断するに、中流層の生活をしている。そう言う生活をしていれば普通は、彼女と夏季休暇は過ごすが相手はいない……となると、仕事によってプライベートが崩壊している……顔の疲労度合いからすると、ストレス……仕事上の人間関係によると考える。その問題がよく起こるのは、主任か係長……拓磨の性格からして、下を使いこなさせてないってところだね」


「真莉、あまり相手をプロファイルしない方がいいと昔から言っていたよね。ほっっんとうに気分が悪くなるから」


 そんな、僕の言葉に何も気分を害することなく


「えっ?

 私の分析間違っていた?」


「間違っていた、どうこうじゃなく人は事実を言われると面白くないんだよ」


「うーん……私、昔から拓磨の言っていることは、理解不能なのよね……」


そう、真莉の見た目は、本当に素晴らしいが、性格はかなり変わっている……いや、人として大きな何かが欠落しているとしか考えられない。


 真莉は、射抜く様に僕に視線を向けると


「で、私の推理合っていた?」


と、何の反省もなく食い下がってきたので


「はいはい……名探偵先生の仰る通りです……僕は、今は中堅企業の主任をしているよ。推理通り、仕事が忙しくて、彼女すら作れないよ……」


と、僕は観念して白状すると、真莉は人の不幸など意に全く介さずニッコリ笑うと


「うん!

 思った通りだ!」


 至極満足そうだったが、僕は全く面白くない。やっつけられぱなしも癪なので、僕は皮肉も込めて


「真莉みたいな美女が、夏季休暇なのに、呼び出せる男がいないのって謎だね」


「そうなのよ!

 皆んな、私に言いよる男は初めのうちは、好意的なのに1時間もすると必ず不機嫌になるのよね……それこそ謎だわ」


 真莉……それが問題なんだよ……お前のそれを治さないと、男なんて一生ムリだぞ……


 「ん?

  そろそろ、友達が来るはずだけど……

  あ!

  来た来た!」


 真莉は、黒いミニバンに向かって大きく手を振っている。すると、ミニバンは盛大なエンジン音を鳴らしながら僕たちの前で止まった。

 しばらくすると、車から男性1人、女性2人が降りてきた。


 男性は、身長が180センチ後半くらい。体格がいかにもスポーツマンというイメージで、髪をポニーテールに結んで、笑顔から白い歯がやけに眩しく光って見えるのが印象的だった。


「真莉、久しぶり。元気だった?

 ああ!

 彼が助っ人なんだね。初めまして、俺は田中幸村。スポーツジムのインスタラクターやっているよろしく」


僕は、出された手を握り返していると、田中君の背後から、子供みたいな幼い印象の女の子が飛び出してきて真莉に抱きついた。


「真莉〜〜!

 会いたかったよ〜〜!」


 真莉は、女の子の頭を撫でてあやしながら、僕に向かって


「拓磨。この子は、相場佳奈。確か学校の先 生なのよね?

佳奈?」


すると、佳奈ちゃんは、真莉から剥がれるとぺったんこの胸を張って


「そうだぞ!

私は、小学校の先生なんだぞ!

えらいんだぞ!」


と言ったが、先生より生徒の間違いではないだろうか?そして、再び佳奈ちゃんは真莉に抱きつこうとすると


「コラ!

佳奈!

あまり真莉に迷惑かけるなと言っているでしょ!」


ショートヘアにちょっと鋭い目つきが印象的な女性は佳奈ちゃんを真莉から強引に剥がすと、深々と僕達に頭を下げた。


「真莉。久しぶりね。こっちが例の彼ね。はじめまして、私は、藤井愛。高校で英語の先生をしてるわ。よろしくね」


真莉は、3人に僕のことを紹介した。すぐに打ち解けた雰囲気になったが、その中で佳奈ちゃんが、不意にこぼす様に


「でも、私たちがこれから行く所って……私、本当言うと何か嫌な予感するのよね……」


 と何気ない言葉に、一瞬にしてその場が凍りついた。その違和感にここの人たちには、僕の知らない何かがあると感じずにはいられなかった。


そして、一行は、ミニバン乗り、重い何かを乗せてキャンプ場へと走り出した。

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