明石 真莉の推理記録 〜三途の送り人殺人事件〜

呉根 詩門

開幕

 僕、小林拓磨は、ごくごく普通のサラリーマン。僕の会社は大手まではいかないけど、中堅規模の通商会社だ。そして僕は経理課の主任を任されている。まぁ経理課は、僕を含めて4人だが僕以外の3人は、揃いも揃って所謂お局様……仕事の指示を与えてもろくに働かず、無駄なお喋りばかりをしてお茶を啜る始末の強者揃いだ。ここの主任に配属なった頃は、キツくあれこれ指示は出したが、全く暖簾に腕押しと言う有様。

 結果、諦めて経理課の仕事は、全て主任の僕がこなさなければならなくなった。


 そんな、ある日の深夜、会社に残って山の様な仕事と格闘していると珍しく僕の携帯が鳴った。こんな生活でプライベートは充実する訳はなく、30手前で結婚も出来ず、ただひたすら会社と一人暮らしのアパートを往復する日々だった。


 ……一体、こんな時間に誰からの電話なんだろう?


 僕は、スマホを取り出して画面を見ると


「明石 真莉」


と表されていた。


明石 真莉……


 彼女は、一応僕の大学時代の彼女だった。


 一応と言うのは、正式に告白して、付き合った……と言うわけではなく。大学時代頃の彼女が、一方的に僕が休みがある度に色々と振り回してあちこちに旅行に連れ出されたのだ。それを、デートと言えばそうなのかもしれないけど、彼女はそう思ってないのかもしれない。その本当の答えは、彼女の心の中でしかわからない。


 彼女は変わっていて、とにかく何か少しでも疑問に持つ事があると徹底的に調べないと気が済まない凝り性で、その度に旅先でいらぬトラブルに巻き込まれた。


……今、思い出してもゲンナリするが、確か彼女は、世界をみたいと騒ぎ出してアメリカへ大学卒業後単身旅立って行った。それ以降全く連絡はなかったが……一体今更何用だろう……?


 僕が、電話に出た途端


「拓磨?

 今どこ?」


「いきなり、今どこ?

 は、ないだろ?

 もう、5年以上連絡ないのに、それはないだろう?

 せめて元気?

 とかないのかよ?」


「ああ、会社で残って残業中か……」


 真莉は、昔から洞察力が強くて、電話口からでも相手の状態など手に取るようわかるのだったと今更思い出した。


「来週、夏季休暇でしょ?

 私の高校時代の友達が、コテージ貸し切ってキャンプするんだけど、男手必要だから誰か連れて来いって。どうせ、今も彼女いなくて予定ないでしょ。黙って帰省するより楽しい事があるかもよ。」


と、そのまま僕の返事や意見を言う機会も与えられず、真莉が一方的に、場所と時間を告げられて電話が切られた。


---- このキャンプであの様な事件が起こるとは……

 この時から、既に密かにこの世から三途へと送る計画が始まっているとも知らずに ----

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明石 真莉の推理記録 〜三途の送り人殺人事件〜 呉根 詩門 @emile_dead

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