ファイル 2
車は、僕たちを乗せて市街地から田園地帯を抜けて山間部へと2時間半近く走っていた。
僕はあまりにも長時間走っているので、たまらずに、運転手の田中君に
「いつになったら、目的地に着くんですか?」
「そろそろ、着きますよ。そこの小川に架かっている橋を抜ければすぐそこです」
僕は、いかにも古くなって今にも崩れそうな橋を見てみると、そこには
---- 三途橋 ----
と書かれていた。何だか不気味な名前で僕は思わず
「三途橋ってことは、その川は三途の川と言う事ですか?」
僕の不安に気づいてないのか、田中君は、至極当然の様に
「そうですよ、あんな小さな川にしては、ずいぶん大層な名前ですけどね」
と、笑いながら答えた。
僕は、まさかこのまま三途の川を渡ってあの世行きではないよな……
と内心、今まで真莉に関わった事件の数々を思い出して不安しか感じなかった。
そんな僕は不安な思いを感じつつ、車はキャンプ場のパーキングエリアについた。車が止まった途端、佳奈ちゃんが、
「山だ!
森だ!
カブトムシやクワガタ捕まえてくる!」
と、まるで子どもの様に車から飛び出して森へと駆けて行った。
「コラ!
佳奈、あまり遠く行ってはダメよ!」
と佳奈ちゃんの背中に向けて愛さんが叫ぶと
「それじゃ、私たちは、管理人小屋に行ってとりあえずコテージの鍵を借りに行きましょうか」
と今度は愛さんが先頭に立って歩いて管理人小屋へと向かった。
僕は、田中君との先ほどの会話や愛さんの行動から
「愛さん達は、前にもこのキャンプ場利用した事があるんですか?」
と、思ったことを何ともなしに口にすると、一瞬にして2人の顔が曇った。しばらく謎の沈黙の後、歯切れ悪そうに田中君が
「う、うん、まぁね……真莉とは、大学が別になってしまったけど、僕たち3人は同じ教育大学の出身でもあってその頃、このキャンプ場を使ったんだよ」
と、何故だか乾いた笑顔を、僕に向けて答えた。そんな中、詮索好きな真莉にしては、珍しく黙って僕たちの様子を見ながら、周囲をキョロキョロと眺めていた。
真莉がこんな動きをするのは、嫌な予感しかしない。僕はこれは気のせいであって欲しいと心底、神様に祈っていると、管理人小屋についた。
田中君は、小屋のチャイムを鳴らすと
---- ピンポーン ----
と、やけに大きな音が響いた。しばらくしても、何も反応がないので再び数回鳴らしたが、小屋の中から何も動きがない様子だった。
田中君は、頭を捻りながら
「おかしいな……?
留守なのかな?」
「ここに、何用ですじゃ?」
と、いつの間にか僕たちの背後に腰を曲げて杖をついている老婆が立っていた。
「あの、僕たちは……」
「聞いとっています。田中さん、ご一行ですじゃろ。わたしゃ、ここの管理をしている西田トミと申しますじゃ。ちょっと、待ってくだせぇ」
と、ふらふら杖をつきながらトミさんは、管理人小屋へと入りしばらくすると、鍵を持って出てきた。
「コテージには、キッチンとトイレとお風呂がありますが、寝室はございませんです。もし、何かあれば私に言ってください。後、ここはあまりにもの山間なので電波が悪いので、電話を使いますなら携帯はムリなので、この管理人小屋の固定電話をお使いください」
そう言って、トミさんは、管理人小屋に戻って入ろうとした。入ろうとする背中に向けて真莉はすかさず
「トミさん、悪いけど、ここ辺りの簡単でもいいので地図とかありませんか?」
トミさんは、くるっとこちらに顔を向けると、しわくちゃの顔で怪訝な色を浮かべながら
「地図ですか?そりゃ、あるにはありますが、何に使いますじゃ?」
真莉は、何か思う所があったかもしれない。ただ一言
「念の為に……」
としか言わなかった。トミさんは、首を傾げながら一言
「ちょっと、待ってくださいまし……」
と言って、小屋の中に入ったがなかなか出てこなかった。
もしや、中で急に具合が悪くなって倒れたかと思って、僕が中に入ろうとすると
「お待たせして、申し訳ないですじゃ」
と言って、B5の紙を一枚、真莉へと手渡した。真莉は、ニッコリとトミさんに笑顔を向けると
「ありがとう」
と言って受け取った。僕たちは、とりあえずコテージに向けて振り返ると、その背中に向けてトミさんは
「あの……本当は、来たばかりのお客さんには言いたくないのですが……」
と、遠慮がちに声をかけたので、真莉は早速踵を返して、トミさんへと向かうと
「トミさん、どうしたの?」
好奇心全開で食い入っていた。
「いや、ここの土地の者の伝承で……この時期になると、この場所はこの世に恨みを持った冥界の者の魂がその憎い人物を冥界へと送る
---- 三途の送り人 ----
がやってくるという話があるので、皆さま方であの世の人に怨みをかわれていましたら、何卒お気をつけくだせえ」
その言葉を、聞いた瞬間、田中君と愛さんの顔が真っ青に変わったのは気のせいだろうか……
僕としては、その状況を見て、また何かしらの厄介事の匂いしかしなかった。
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