第6話 オリジスタンにて②
日が沈んで、戦果が各方面の伝令から伝えられてきた。ユリアと話しているとキヨテ騎馬隊長と愛弟子のオリオンが入ってくる。
「陣の設営、完了しましたぞ。」
「ご苦労様。それで、今後どう動くか話さないといけないわ。」
「地図をお持ちします。」
ユリアが即席の机の上に広大な地図を広げた。この周辺と各陣営の所在が記されている。
「先ほどすべての友軍の位置と被害がわかりました。いずれも損害は軽微で山地のふもとまで前進した模様です。」
「隣り合う軍団が見えなくなるほどには前線が進んだらしいですな。これでは馬がこれ以上進めないではないか。」
アゴヒゲをさわりながらキヨテが地図を睨む。
「十中八九戦略的な後退でしょうな。」
「そう考えても意図がよめない。むざむざこの収穫の時期に穀倉地帯を明け渡すなんて。」
「たしかに。ずいぶん変ですね。」
オリオンも地図を睨み始める。睨んでもなにも出てこないぞ。
「強固な陣を作ってしまえば突破は至難の技ですから、夜襲でしょうか?」
「腕の良い物見を派遣しているが敵は山中の要所に固まって動く気配がないらしい。」
「……。」
「仕方ない、しばらく様子をみることにしよう。」
敵の目的がわかったのは3日後のことだった。
よく晴れた日。この時期はあまり雲がないのはこの世界で秋晴れと呼んで良いのだろうか。早起きな少女二人の優雅な(優雅な少女二人の…?)朝のティータイムに兵士が舞い込む。
「良名様!後方に火の手が上がっております!」
「後方……?!」
お茶が冷めるのも気にせず(書いているということは気にしてたのだが)幕舎を出てみると確かに穀倉地帯の地平線に煙が見える。
「お気をつけて、撹乱かもしれません。」
「わかっている。山側の警戒を怠らないように各隊に伝えて。」
「了解しました。」
その時矢倉の上から声がかかった。
「良名殿-!」
「オリオンか!なんだ!」
「おはようございまーす!」
「……それだけかー?」
「いいえ、煙の方角から一騎来まーす!」
確かに砂ぼこりが見えてきた。味方だろうか。
「伝令!後陣に構えていた第三師団の部隊が、敵の奇襲を受け交戦状態であります!至急救援を!」
一騎駆けてきた兵が、武装を済ませた私たちの陣で報告した。兵士たちの顔が曇り始める。
「どういうことだ。後方とは」
「戦線が崩れたのか?」
キヨテが声を張る。
「皆これしきでうろたえるな!!陽動なら敵の思う壺だぞ。」
「もし陽動じゃなかったら…。」
「私もそれを思っていたユリア。こんなに前線が広がってしまったのだ。夜にでも抜け道を通ればそれも通過できるだろう。」
「では敵の本格的な攻撃でしょうか。」
「おそらく。挟み撃ちの作戦かもしれないが。」
「恐れながら、私がみた限りでは敵は相当数いるものと思われます。左様かと。」
伝令が言った。
「かといって、ここを開ければ山の敵さんが降りてきてしまうぞ。二手にわかれるには兵が足りん。」
「いいではないですか。」
オリオンが合点したようにわざとらしく手をポンっとする。
「敵が我々の得意とする平地に降りてきてくれるならば、何回陣を敷かれようが騎馬隊の餌食にしてやりますよ。」
「おぉ!よっ!副隊長!」
彼の同期から喝采が飛ぶ。
「全く生意気小僧が言うようになりおって…」
まぁ、まんざらでもなさそうな現隊長であった。
「フフッ、そうか。では決まり。至急馬の用意を。救援に向かおう。」
「「はっ!!」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます