第3話 バイルシュタインにて②

ドラがなり、敵襲を配下2000人全員に伝える。

オーダーメイドの紺と白の鎧を身に纏いながらドラが何回鳴らされるかを注意して聞く。

「に、さん、よん」

これで各方面からどれぐらいの敵が押し寄せてるのかを見方に知らせるのだ。物見やぐらを一番はじめに建てるのだが、間に合って良かった。

「ご、ろく……なな………はち」

ちなみに一回で千人のはずなんだけどおかしいな。私の聞き違いかな?


「良名様!敵は一万を越えるようです!!」

ユリアが武装して入ってきた。

私が思い上がらないように、“良名様”と呼ぶのは止めるように言っているのに変えないユリアに若干じりじりした。五倍を越える敵を前になんとのんきなことか。私は。ってか山にやった物見は一体なにをみて“異常ありません!”って言ってたの。まさか旗とか陣地がパッと見、なかったからとかじゃないよね……。


「物見を鍛えないとね。さぁ、5倍の戦力差で正面衝突できるほど我々に兵は余ってないわ。陣を捨てるしかないわね」

「え、しかし」

「主力一軍をしんがりに、1日分の食糧のみ持って全軍バイルシュタイン市街地に。ここに敵はいないはず」


物見が正しければだけど……。これは若干賭けだった。しかし三千と聞いていた兵が一万ということは、もとよりの敵に加えて敵増援も入っているだろうしこれ以上策があるとは思いにくい。今、全力で潰しに来たと考えるのが自然だろう。


「総員、市街地へ。攻勢も薄いはず」

「了解!騎馬は外に用意してございます」

「ありがとう流石ね。ユリアは足の遅い歩兵を率いて市街地へ。私は騎馬隊とともに退却を援護する」

「わかりました。ご武運を。」


うーんあっさりしすぎている。ちょっとは心配してくれてもいいのに…と思う。死ねって言ったら死んでしまうのではないか?いや、そんなことを考えている場合ではない。


槍をとる。針葉樹林が広がる我が国ならではの重く、色こく、強い槍。敵を切らなくても柄に当てれば相手をなぎ払えるので気に入っている。突くしか用がない槍先はまだそんなに汚れていない。


蹄の音が大地に響く。雄叫びが空気を揺るがす。

背の高くない私のために疾風号…愛馬につけられた梯子に足をかけたとき、陣の奥から敵の破廉恥な赤い旗が見えた。幕舎の裏で待つ直属の騎馬隊に合流する。


「お待たせ!!」

「いえ、女房の着替えは1年待てといいますからな!」

「それと比べればカメとウサギですよ」


一同に笑いが起きる。騎馬隊師範のキヨテと一番弟子のオリオンだ。初老とたくましい青年の組み合わせのお陰でこの騎馬隊は固く結ばれている。


「よし、我々は退却の援護をする。ただ下がるのではあちらの思うツボだ。一点を切り開き敵の背後を荒らす。質問は。」

「歩兵は大丈夫でしょうか。」

「なあにユリアがいるさ。」


彼女のお手並み拝見といこう。

「出陣!」

馬が出やすいように陣は作ってある。まだ未完とはいえ、材料がそれらしくまとまっておいてあるので出陣はたやすかった。


風をきって進むと、ほどなく、味方前哨を蹂躙した敵の歩兵の壁にぶち当たった。陣のちょうど中央あたりか。騎馬を予想して大きな盾を構えている。愚かな。疾風号の馬力を見せてやろう。


フワリ騎上は重力を失う。盾の高さが足りなかったね。私、名馬には釣り合わないくらい軽いらしい。翔んでる刹那、後ろに控えている槍兵弓兵と目が合う。

「ごめんなさいね!」

着地と同時に右を薙ぎ払う。あの神が私に授けたのは前世の倍は丈夫な体。流石にまだ左手は添えてるけど。次は左を薙ぐ。

前と後ろに手は回らないけど、前の敵も振り向いた盾の人も一蹴りで疾風号が即死させる。この子は強いってだけじゃない。賢い。私よりよっぼど戦闘力あるわ。


長い槍は密集してると使いづらい。弓は味方に当たっちゃうから撃てない。戸惑っているところに屈強な男たちが馬で盾にタックルしてくる。

挟み込もうと敵がうごめき始めた頃、敵の壁が抜けた。敵の背後は開けた平地。


さて、どちらから荒そうかと思っていると、正面に荷馬車を連ねた敵の一団が見えた。一部が杭を立てているのを見ると、陣を設営してるらしい。私たちがこちらに来るなんて思ってなかったにしろ油断もいいところだ。


「敵、正面輸送部隊!火矢をもって焼き払え!」


陣が場所がなくなった敵はどこで寝るかな。輸送部隊は兵も少なく、対した犠牲もなく火の手をあげられた。煙も出てきたし、一万人分のテントが後方で煙を上げているとあれば敵全員に見えるだろうから陽動にはもってこいだろう。


蹴散らした歩兵隊が戻ってくる。騎馬隊はいないらしい。山中に潜んでいたとあれば馬のいななきでばれてしまうからか。


「右がやや厚いな、左へ!」


来るとき、我々が突き進んだ直線を挟み込もうと寄った敵だったが、そのせいで今度は左右が薄くなっている。ここは、来たときより楽に抜けることができた。

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