第2話 バイルシュタインにて
読まれている諸君には、時系列が飛ぶのをお許し願いたい。何しろこれはもともと創作ではなく、戦場の記録を我が国の宮に伝えるための報告書として書いているので、私が矛を取り戦うようになった経緯は、また追々綴るとする。
さて、ここ、バイルシュタインという町は我が国の西の最前線になっている。この馬と剣で戦っている時代にしてはプラスチック工業が高度に発展している都市で、家々から鎧武器に至るまで自給しているがあまり交易には興味を示さない。技術のわりに富が集まらないなかなか不思議な場所だ。山に挟まれた広い谷のような地形にも関係があるのだろう。一方を内陸に、もう一方を我々の土地に開けた地理になっている。
この地方の民はいまだかつて我々に背いたことがなかったので戦争を忌避する性格なのだと思ったら、諸侯の我が国に対する宣戦布告を踏襲しておいおいと武器をとる。人間ってやはり…。
都市郊外の農村に陣を構えた。木の棒を組んだ高い囲いに、斜めに鋭く構えた馬止め。寝床は布の幕舎といういかにも私が好きな中国三國時代の時代観を反映した異世界で、少し気に入っている。
そういえば今日はちょうど転生してから2年の節目ではなかっただろうか。10月の6日といえば。
2年とは長いようで、圧倒的に短い。ただでさえ短いのに、寝ている時間が三分の一を占めているなんて人間は損だと思う。
「物見から報告が」
側近……というより世話係に任命された、宮で一二を争う顔立ちの子が報告に来る。普段の宮廷で来ているメイド服よりだいぶ控えめな色合いも彼女にはよく似合う。腕の方は確かだというがいまだ確認はしていない。宮では忍ぶ者つまりはスパイとしての腕も磨かれるのだとか。
「ありがとう。報告を、ユリア。」
「敵はバイルシュタインの市街地に拠点を置いていたということですが、物見の報告によれば町には兵力らしき兵力は見られないとのことです」
「いないですって」
いない。嫌な予感が脳をよぎる。こういう生存本能的な予感は信じるべきだ。経験上。(笑)。二年前に体の悲鳴を聞いていればここにいないのだ。そう思うと笑えてしまった。
「フ…消えることはないわ。撤退したならいいけど。直ちに主力一軍の陣の設営を中止、武装して警戒を厳に」
「了解」
ユリアが外で配下に指示を飛ばすのが聞こえる。国境から比較的近いとはいえ、武装した兵士が歩けば半日はかかる距離だ。ついた時はよく訓練された兵でも疲れている。今日一番危険な時間帯といえr「「敵襲!!!」」
…言わんことではない。
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