第2話
また、数日後、今度は、奈緒が入院していた病院を訪ねた。
大きな病院だった。
奈緒のいた病棟は、隣の小児病棟に繋がっており、間に広いスペースがあった。ナースステーションに見守られている。小児病棟にいた子が、ある程度の年齢になると隣の病棟に移るようだ。
両方の病棟から、自力で歩ける子や車椅子の子たちが集まって、そこでワイワイと賑やかに話をしたりしていた。
そのスペースの隅で、窓の外を見ながら何か思いに
私は、彼に話しかけた。
「あなた、ここに入院してるの?」
彼は、
「見ればわかるでしょ? 何?」
「田辺奈緒さんのことで、何か知ってることがあれば聞かせてほしいんだけど」
「……あんた、警察の人? それともマスコミ?」
「違う違う。奈緒さんと一緒にボランティア活動をしてたの。いつもは会社員。ほら」
私は、彼に名刺を渡した。
「なんで奈緒のことが知りたいの?」
「親しかったんだね。君、名前は?」
「……
奈緒より年上だったのか。ちょっと驚く。
「あいつも俺も、小さい頃から病院には出たり入ったりでさ。いつの間にか
伊織は少し遠い目をする。
「あいつも相当辛い思いをして生きてきたから」
「辛い思い?」
「どこまで話していいのかわかんないしな。あんたのこと信用してるわけでもないし……」
そう言いながら、伊織は私の名刺に目を通す。
「あ。あんたか。『みわさん』」
「
「奈緒が……。奈緒から、あんた宛に手紙を預かってる」
「え? 私宛に……?」
「待ってて。取ってくるわ」
そう言うと、伊織は車椅子を器用に動かし、自分の部屋から封筒を取ってきた。
「はい」
「あ、ありがとう。……でも、奈緒さんは、私がここに来ることがわかっていたのかしら……」
「来なかったら捨てて、って言ってた」
「あなたに頼んだんだ。なんで親御さんとかに頼まなかったんだろう?」
「さあ? 奈緒んちは複雑な家庭だからじゃね? 奈緒が何を考えてたのかまでは、俺にはわかんない。ただ、『みわさん』って人が来たら、これを渡して欲しいって言われてだけだから」
はい、と手紙を渡して、中野伊織は去って行った。
手紙は、分厚い封筒に入っていた。
「高柳美和様」
少し子供っぽい字で、そう書かれた空色の封筒。所々に雲が浮かんでいる。裏返すと、名前は書いていなかった。代わりに、白い鳥のシールが貼ってあった。これは……カモメ?
そう言えば、
「私はカモメみたいなもんなんです」
奈緒が、そう言って寂しそうに笑ったことがある。あれは、どういう意味だったんだろう? と思い返す。
これは、きっと、大切なことが書かれているに違いない手紙だ。部屋に帰ってから、一人で、ちゃんと読もう。そう思った。
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