第一話:告白
「あの、シュタイナーさん」
綺麗に切り揃えられた亜麻色の髪が揺れる。
無視されるかも、くらいの覚悟をしていたが、意外なまでに普通に、彼女は私へと振り向いた。
「……はい。なんでしょうか、アイリス・アルベルト様」
その表情は硬い。
……それはまあ、仕方ない。死亡フラグ回避のために必死に日々を送る中で、彼女――セレスに関わることは無かった。彼女の中では、アイリスは以前のアイリスのままなのかもしれない。
けれども。最推しである彼女に声を掛けて、応えられただけでも嬉しい。高揚する心を何とか抑えながら、自然に見えるよう笑みを浮かべる。
「様、って、そんな畏まらないでほしいな」
これは本心。
出来るならばゲームでよく見た彼女のように、自然に気さくに話してもらいたい。そう思い言葉にしてみたのだけれど、こちらは案の定と言うべきか、彼女の表情は硬いままだ。
「……。何か、御用ですか」
相当に嫌われていることを自覚する。
ゲームで見た、彼女のままだ。ユイシアの親友であるセレスは、どこまでもユイシアの味方であった。どのルートであろうとも、けっして他の何某かに気を取られるようなこともなく、一から十まで徹底してユイシアの親友で味方であり続けた。だから、物語の開始時点で、セレスからアイリスへの好感度は最底辺。そこから全く変動していないことを知る。
けれど。
そこそこ好きなゲームで、少し古い不便かつ調整の難しいシステムの中そこそこ周回したのは、彼女の存在が大きかったから。それくらい、好きだなと思えるキャラだったセレスが目の前にいる。
これはチャンスだ。死亡フラグを回避し続けた先に現れたチャンス。
諦めたくはない。
「あの、ちょっとお話がしたいと思って」
「……急いでいるのですが」
「少しだけ! そんなに時間は取らせないから!」
「……なら、5分だけ」
「ありがとう!」
廊下の大窓から夕陽がさす。茜色に照らされる彼女を前にドキドキと高鳴る心臓を抑えながら、何とか引き留めることに成功した。
しかし猶予は無い。5分だけならと言っていたけれど、このまま私がウンウンと悩み続けて何も言わないのでは、制限時間を待たずして「用が無いなら」と立ち去ってしまうかもしれない。
なので。
私の願望。それを口に出す。
「シュタイナーさん」
「はい」
「私と、お友達になってください!」
他に人影はない。立派な窓は外の些細な喧騒くらいでは通しやしないのか、広い廊下には二人の声が静かに響いている。
そんな中で、私の、アイリスの声が一際大きく響いた。勢いよく下げた頭のせいで、告げた直後のセレスの顔色は伺えない。
「嫌です」
それでも、返された言葉は、脳内で何度もこだまするくらいに、はっきりと聞こえた。
「私は貴女が嫌いなので、友達にはなりません」
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