曙色
秋。
読書の秋
食欲の秋
芸術の秋
スポーツの秋
俺にとっては音楽の秋、またを恋愛の秋。
吹奏楽部のA先輩。笑顔が可愛くて、でもサックスを吹く姿はかっこよくて。
普段優しくて明るくて、でも音楽の話は真剣に。
パートの違う俺にも話しかけてくれて。
俺はそんな先輩が好きだった。
人として、先輩として、異性として。
吹奏楽部に男子は俺だけだった。よくこき使われた。力仕事はほとんど俺。
ヒョロガリで背だけのごぼうの俺には辛かった。でも先輩のおかげで頑張れた。
いつも憧れていて、目線が行ってしまって。
たまに目があって、笑顔を返してくれて。
そんな先輩を見て顔をそらしちゃって。
思いを伝えたくても恥ずかしくて。
そんなこんなで夏。先輩は3年。俺は1年。大学どこ行くかなんて話す先輩を見ていてとても心苦しかった。気持ちが伝えられないもやもやにずっと振り回された。
そんな俺にもチャンスが来た。8月31日の夏祭り。そこで俺は告白をした。
”好きです、付き合ってください。”
誰もいない静かな川辺で放った言葉。
その一言にどれだけの気持ちが詰まっていたか。花火のように一瞬の告白。
その後に来るのは夏休みのような長い沈黙。その後の一言は...
秋になった。先輩は受験に向けて勉強のために部活を卒業。
俺は勉強も部活にも身が入らず、上の空。
”少しだけ待ってほしい”
その一言で俺の気持ちは混乱した。YESでもNOでもない答えに戸惑った。
その後は、覚えていない。先輩に送られたのを覚えているくらいだ。
そして時は過ぎ、春になった。先輩は卒業した。答えはもらえなかった。
先輩との交流は続いた。毎年夏と秋の境目に顔を出してくれる先輩。
未だに先輩と顔を合わすと心が締まる。泣きそうになる。
秋が終わる。もう春になる。答えはまだだ。
そして3年になった。今年も来るのだろうと思った。来なかった。
秋になった。先輩との連絡はもうとっくのとうに消えた。
はずだった。
”あの日の川辺に、午後9時に”
急いだ。走った。転びかけた。涙がこぼれた。嬉しかった。遅いって言いたかった。
答えはもらえなかった。会えなかった。
夜だったからか、交通事故で意識がないらしい。
戻るまでどれだけかかるかわからない、医者が話していた。
先輩が俺を見たときの一言を今でも覚えている。
”私の弟ですか。”
俺の告白は綺麗サッパリ飛んでいったらしい。
クソッタレが。
大学生になった。1年の夏の終わりだった。先輩が起きた。
記憶がなくなっていた。長期記憶障害。嫌な響きだ。
先輩の大学の人がいっぱい来た。
男たちはふざけて俺が彼氏だと教える。
女たちはそれを訂正する。
そんな生活も一ヶ月。先輩は少しずつ思い出してきていた。
今ではあのときの部活のように話している。
告白の答えはもうもらえないと悟った。
秋も深まってきた。月が綺麗だ。
もう一度告白しようか迷った。思い出すまで待ったほうがいいのか。
今の先輩は俺の好きだった先輩なのだろうか。
俺の答えは。
数年がたった今でも俺は先輩といる。
答えはもらえていない。思い出されてもいない。思い出されないかもしれない。
重いと言われるかもしれない。親不孝かもしれない。間違っているかもしれない。
それでも俺は先輩といることを選んだ。一緒にいたいと望んだ。願った。
先輩が好きだから。心から愛しているから。だから。
”もう少しだけ、待ってます。”
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