エピローグ 見合う二人 その七(終わり)

 石動も、滅多に本気で怒る秋水を知らない。


 どんなに過酷なトレーニングでも愚痴は言うが楽しそうだ。


 でも、それは何かを封じているのかもしれない。


 過去の話を秋水はあまりしない。


「面白くねぇよ」


 の一言で片づけることが多い。


 

 頭と顔に温水が勢いよく複数当たる。


 ついていた泡が汚れとともに落ちる。


 胸から腿付近を隠すドアに掛けた、体用のスポンジに手をかける。


 ポンプ式の容器から洗剤をつけて泡立て、体をこする。


 隈なく洗う。


『体臭とか垢には気をつけろよ。病気になりやすいし、敵に遭遇しやすい。体が洗える時には体は隅々まで洗え』


 これも秋水が戦場で教えた一つだ。



『心身とも快楽至上主義‼』


 自他ともに認める秋水の性格だ。


 その彼の相棒は疲れる。


 でも、最近、ふと思う。


 彼は本当にそうなのか?


--本当は心の奥底に地底の溶岩のような怒りや悲しみを必死で隠そうとしているのではないか?


 

『まあ、元奥さんと復縁しているみたいだけど……』


 と思考を変える。


『取引先のボンボンの性根を叩きなおすために俺を仮想の養子にしたのはいいが、その父親の社長が持病で入院。奥さんは切迫してお見合いを叩きつけてボンボンを目覚ましたかったが……変な幕引きになったなぁ』



 そういうことを考えながら石動はポーを凝視していた。


 体は全部洗った。


 隣のポーは首まで洗い、顔を洗おうとしていた。


「何を見ている?」


 悪びれることもなく石動は言った。


「いや、スキンヘッドのあんたが、何処まで顔を石鹼で洗って何処からシャンプーで洗うんだ?」

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見合う二人 隅田 天美 @sumida-amami

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