エピローグ 見合う二人 その五

 お互いがお互いの視線や足の動き、呼吸などに全神経を集中させている。


 偽の、ゴム製のナイフだ。


 いくら刺そうが刃は柔らかく曲がる。


 しかし、平時から鍛えないと戦場では、ほぼほぼいい武器だろうが、どれだけ格闘技に長けていただろうが意味がない。


 

 エアコンもないので室温はゼロに近い。


 吐く息は白く、体からは湯気が出る。


 じりじりと歩を進めれば、その分、相手も前に出る。


 ポーは内心、感心した。


『流石、【霧の巨人ミストジャイアント】の愛弟子だ。恐れずに前に出る。【黒き疾風ダークストーム】……』


 そして、意を決した。


 攻撃を開始する。


 矢継ぎ早の突き、加えて、足技を繰り出す。


 大抵の新兵あがりでは、足が疎かになりひっくり返る。


 石動は違う。


 ナイフの刃先を見ながら、足さばきも実にリズミカルだ。


 また、そうしながも、石動も脇腹や首筋を的確に狙ってくる。


 目まぐるしく変わる攻防。



 再び、距離を取る。


 と、ぽーんっと石動はナイフを投げた。


「はい、お終い」


 その言葉にポーは警戒を解いた。


 理由は自分自身だ。


 風邪を引いていたのに、無理を言って石動とトレーニングした。


 今時期、肺炎になってもおかしくない。


--自分らしくない


 ポーは思う。


 ただ、本気の平野平秋水を見た時、畏怖の念を抱いた。


 

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