第二話 くやしいけど、ジャンクフードは美味い その二

「はい、何か?」


 裏の社会では決して見せない『外国人だが、良き隣人』としての笑顔でポーは玄関を開け、後悔した。


「よっ」


 好敵手ライバルの石動肇が目の前にいたのには流石に張り付けた笑顔もひきつる。



 ポーからすれば、石動肇は敬愛する母国の王妃を奪い、略奪婚までした悪漢である。


 同時に悪王の虐待に耐え続けた悲劇の王妃を救い、心から愛し、日本という治安のいい国で保護した騎士ナイトでもある。


 どこの国の物語でもある王妃を救った騎士と結ばれる物語の現実にした男だ。



「風邪、引いたんだってな。薬局で適当に見繕ってきた」


 ポーは思案した。


 普段なら彼の師匠である平野平秋水が「やっへほー!」なんて能天気な元気で無理やり入ろうとするが、目の前にいるのは石動肇だ。



--見舞い?


『まさか……』


 ポーは即座に否定した。


 同じマンションに住む、に堅く口止めをした。


 心配されたが、その前に電話の通話を切った。


 今の上司は信用できる。


 そう思ったから、ポーは上司を「主殿」とか「主」と呼んでいる。



「ちょいと、ポーに頼まれごとがあるんだ」


 石動の瞳と小さな声に影が宿った。


『裏仕事か……』


 追い返すこともできるだろうが、今の自分を知るいい機会だ。


 また、ポーは良き隣人としての笑顔になる。


「わざわざ、お見舞いありがとう。中へどうぞ」

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