第二話 くやしいけど、ジャンクフードは美味い その一

 ポー・スポークスマンは、先週から風邪を引いていた。


 

 高熱や嘔吐などはないが、微熱や倦怠感が続き、ほぼほぼ外には出ていない。


 マーリンなどのペットたちも最低限の接触だけで、基本的に自分の寝室から出なかった。


 最近、嫁に出した娘には連絡をしなかった。


 世話好きの彼女のことだから、病院だの安静にしろだの言って色々食べさせ眠らせるだろう。


 

 これは己の平和ボケだとポーは部屋で猛省していた。


 健康管理は暗殺者以前の社会人として当然の自己問題である。


『そりゃ、おめぇ。人間だもの。血が出るかぎり、屁もすりゃあ、糞も出る。病気にならないほうがおかしい』


 上司の猪口や、知り合いの平野平秋水なら言いかねないだろうが、「プロの狙撃者」として裏社会で名を轟かせた者にとっては、この状況は許されるべきものではない。



 どんな言い訳をしても死は平等にやってくる。


 戦争ならなおのこと。


 だから、徹底して自己管理をする。


 それが、日本で翻訳家を表看板にして生きはじめたら、この様とは何とも情けない。



 ポーは長年愛用しているスナイパーライフルを手入れしながら自分を叱り続けていた。


 玄関のチャイムが鳴った。


 表の世界でのポーは翻訳家であるが、当面の仕事は終わらせて、それなりの収入を得ている。


 スナイパーライフルを隠し扉に仕舞い、眼鏡をかけて、ポーは玄関へ向かった。

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