第一話 偽装お見合い その五
この異常事態にようやっと、石動肇の脳は普通に戻った。
懐から隠し持っていた
「うぎゃ!」と若い悲鳴がした。
「撤収だ!」
パラパラ攻撃してくる。
だが、音で分かる。
プラスチックの小さい球だ。
「あ……」
それが油断になった。
綾子の手の甲から薄く血が滲んでいた。
「?」
プラスチックのBB弾だったはずなのに、これは拳銃の弾丸がかすった後。
「大丈夫かね?」
そこに両親のふりをした猪口達がやってきた。
事は大きくなった。
警察が調査して、ホテルの観光客一人一人をチェックする。
昨今の世界情勢を考えれば当然だ。
自然とお見合いは『後日……』となり、石動がネクタイを外して、愛車のグリフィスにたどり着いたのは夕方であった。
「はい、おっつかれ」
そこには昼間とは打って変わって意気揚々とした明るい秋水が助手席にいた。
「何ですか?」
「いやぁ、面白くなってきたなぁって……ま、これからのことを考えて、食べ給え」
声にも目にも張りがある。
投げ渡したのは新聞紙に包まれたホットドックだ。
「調理場の新人君に無理して作ってもらった」
「はぁ……」
あまりの様変わりに石動は小さく頷いた。
ブラックホールが再び動き出した。
--ロクなことにならないのだろう……
石動は観念した。
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