第一話 偽装お見合い その四

「こんにちは……初めまして。鷹森祐樹です」


 石動肇が偽名を名乗る。


「父の……鷹森卓です」


 平野平秋水も偽名を名乗る。



 老婦人以外、四人は顔見知りである。


--何が鷹森だ⁉ 鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔で!


--何で?


--最近、エッチなことをしたばかりじゃない……


--この状況、何⁉



 混乱するが、とりあえず、おずおずと偽装されたお見合いは始まった。


「はぁ、森野さんは不動産会社の社長をなさっていると……」


 本当は元公安で活躍し、現在は星ノ宮警察で特別指導員をしている退役敏腕刑事であり、秋水たちの裏社会におけるお目付け役のようなことをしている。


「いやいや、鷹森さんも宝石商として銀座に店を持っているとか……」


 お互い笑うが、ドライだ。



 ホテルに併設された離れの平屋の和室で茶番が始まった。


 ただ、唯一蚊帳の外である老婦人は、どれだけのことを知っているか分からないが、とにかく、四人は役に徹することにした。


 どれだけ、台本のない、実もない雑談をして定番の「若い二人に後は任せましょう」という流れになった。



 とりあえず、石動と綾子は庭園で歩いた。


 これまた、「今日は天気がいいですねぇ」などとどうでもいい話をしていた。


 幸い、二人しかいない。


 何かが回る音がした。


「伏せて!」


 石動が綾子の肩を持って地に伏せた。


 その瞬間、池に何かが跳ねて波紋が広がった。

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