第一話 偽装お見合い その一

 石動肇は、現在、その業界では名の知れた有能なIT企業の社長だが、若き日は、その会社という大木を育てるために世界中を飛び回り、有能な『社員』という種を探した。


 主にインドなどを巡って様々な人種、国籍の有能な人間を集めた。


 その彼らを人件費の安い、比較的治安のいいバンコクなどに移住させ育て、開花させ、『業績』という果実を実らせた。



 ただし、一筋縄ではいかない。


 そこには、必ず、一人の日本人が関わる。


 平野平秋水である。



 世界中をめぐる、というのは、治安の悪い、下手をすれば銃弾が飛び交う紛争地域や戦時中の場所を歩く必要がある。


 その時、出会ったのが平野平秋水だ。



 初めて見た時は、某国の反政府組織、早い話がテロリストに囲まれたとき。


 彼らを吹っ飛ばして、歯向かうものには片手に持った大型拳銃で容赦なく頭や心臓をぶち抜く男。


 その巨体と眼光の鋭さに多少武術などの経験のある石動でさえ、真夏の砂漠なのに背筋が凍った。


 だが、その大男はすぐに形相を崩した。


--人懐っこい笑顔だ


 呆気に取られて、そう思った。


「ねぇ、君。日本人? ……俺、平野平秋水って名前なんだ」


 言葉も口調も、日本語で子供に話しかけるように親しみやすい。


 だが、背後から襲ってくる敵を石動に笑顔を向けたまま拳銃で脳を吹っ飛ばした。


 

 そこからの縁で、石動肇は平野平秋水の最初にして最後の弟子であり、最愛の友人であり、唯一無二の相棒になった。



 その、恩師と呼べる男が、目の前で腑抜けになっていた。

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