第2話 市場での大騒ぎ
ふわふわと風に乗って漂うめかぶの妖精。港の街を見下ろしながら、妖精は夜空を軽やかに進んでいった。気持ちよさそうに風を楽しんでいるその姿は、まるで水中を泳ぐ魚のようだった。
「どこに行こうかな……まあ、風が決めるか!」
目的地など何も考えず、風まかせで空を漂う妖精。やがて、夜明けが近づき、東の空がうっすらと明るくなってきた頃、風が弱まり始めた。妖精は少しずつ地面へと近づいていく。
「またか……」
風が止まると、自分で動けなくなることを知った妖精は、もう諦めた表情を浮かべながら、ゆっくりと市場の真ん中に落ちていった。そこは早朝の市場、漁師や商人たちが次々と魚や野菜を並べ始めるところだった。
「よし、もう少しのところで風が吹いてくれれば……」
しかし、妖精の期待とは裏腹に、風は完全に止まってしまった。ポトリ、と地面に落ちた妖精は、今度は市場の通路の真ん中に放置されることとなった。
「えぇ……今はダメだよ……」
妖精が愚痴をこぼすそのとき、朝の市場は本格的に動き始めた。商人たちが威勢のいい声をあげながら魚を売り始める中、ひとりの若い漁師が気づかずに妖精のすぐそばに立った。
「危ない、そこに僕がいるんだけど!」
妖精は声をかけるが、またしても聞こえない様子だ。そして――
グイッ!
「ふがっ!」
若い漁師がうっかり妖精を踏んでしまった。しかも靴裏にベッタリとくっついてしまった妖精。自力で動けない妖精は、仕方なく靴裏にくっついたまま、漁師が歩く先へと引きずられていく。
「助けてぇぇぇぇ……!」
市場を移動するたびに、魚の上に乗り上げたり、野菜の山に突っ込んだりする妖精。周りの人々は不思議な物体が次々に市場の商品を荒らしていることに気づき、ざわめき始める。
「何だこれは!」
「妖怪か!?」
「魚がひとりでに動いてるぞ!」
漁師は何も気づかないまま、市場中を歩き回るが、その度に妖精が市場の商品を引っかき回していくため、商人たちは大騒ぎ。次々に魚や野菜が倒れ、市場全体がパニックに陥った。
「ちょっと、誰か助けてくれないかな……!」
妖精は何とか逃げようとするが、靴裏から逃れることができず、引きずられたまま市場を進んでいく。しかし、運のいいことに、漁師が止まった瞬間、ようやく靴裏から外れた妖精は、ポトリと地面に落ちた。
「ふぅ、やっと解放された……」
市場の端で一息ついた妖精は、周囲を見回すと、市場全体が混乱に包まれていることに気づいた。魚や野菜が散乱し、商人たちが怒ったり驚いたりしているのだ。
「もしかして……これ、僕のせい?」
妖精は少し反省しながらも、騒ぎを楽しむような笑みを浮かべていた。これからまだまだたくさんの場所で、同じような騒動が待っていることを、彼はまだ知らない。
「でも、面白かったなぁ……」
妖精は、再び風が吹き始めるのを待ちながら、次の冒険を心待ちにしていた。
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