第13話

「買い物して帰ろう」

 そう叔父さんが言って連れて行かれたのはニトリだった。小さいころニトリにくるといつも心躍っていたものだけれども、今日は踊らなかった。ただベッドがあるなとか、いろいろあるんだなと、思っただけ。

 なんだか、喜びとか楽しいとか、そういう感情が抜けおちているきがした。

「叔父さんには何も分からないけど、ユキちゃんが、苦労して生きてきたことだけはわかるよ」

 ニトリのベッドを眺めながら叔父さんはそう言った。

「ユキちゃんが、嫌いなことは何?」

 心の奥で、優しそうに笑ったお母さんが私の方を向いて『ユキは怒られるのが嫌いだよね。あと勉強もそんなに好きじゃないのお母さんは知ってるの。人と話すのも苦手で、人見知り。でもねユキはとっても優しい子』と語りかけてくる。

「なんでそんなこと聞くんですか」

 こんなことを聞く私が優しいわけがない。

「叔父だからだよ」

「親の代わりになろうとしなくていいです」

 こんなに優しくしてくれている叔父さんのことを突き放そうとする私が優しいわけがない。私は自分の性格が悪いことを知っている。

 そして今頃思い出したことがある。

「私はお母さんを捨てて東京でホストなんかやってた人を親になんてしたくない。貴方が秋田からでて東京で楽してお金を稼いでいる間に、お母さんは両親の介護をしながら、仕事をしてた。それで結婚できたかと思ったら、あんな父親と結婚して、ずっと苦労しかしてこなかった。でも」

 でも、一番嫌なのは、こんなことじゃないし、こんなことを言う自分が好きなわけじゃない。良く知りもしないのに人のことを悪く言う自分が大嫌いだ。

「私が生まれてこなかったら、お母さんはもっと幸せに生きられたかもしれない。お母さんが事故に遭ったのは、学校終わりに私のことを迎えに来ようとしたから。お母さんは、私のせいで死んだんです。今まで黙ってごめんなさい」

 黙っていたというか、思い出せなかったというか。やっと私は思い出した。なんでお母さんが事故に遭ったのかを。

「私なんか引き取らせてごめんなさい」

「引き取らせてくれてありがとうと、叔父さんは言いたいけどね」

 俯いて見えるのは、白色の床と、床に反射する自分のシューズ。

「私は、どうしたらいいですか。お母さんを殺してしまった罪責感と、叔父さんに引き取ってもらった罪悪感で、私は今苦しいです。生きているのが苦しいです」

 そしてこれは言ってはいけない。もしも言ってしまったら、ただでさえ大変な叔父さんに重い負荷をかけることになる。言葉を発しようと息を吸い込んだけれど、どうにか、口を閉じることができた。

 俯いて床だけ眺めていると、叔父さんの靴先が見えた。顔をあげようとしたとき、唐突に抱き上げられ、私は頭が真っ白になった。

「え、なに、こわ」

「ユキちゃんを死なせたら、怒られるのは叔父さんだからね。絶対死なせない」

 そうしてニトリのベッドの上に転がされて、また抱き上げられると、ベッドに転がされた。

「どのベッドがいい?」

「どれでも…」

「じゃあ、一番可愛くて豪華なやつにしよう。天蓋とピンク色のカーテンがついたやつ」

 本当に買うわけないだろうと「お好きにしてください」と言っておいたら、本当に天蓋カーテンの付いたベッドを買ったため、私は焦った。

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