第12話
のっぽな若い男性の精神科医が告げた私の病名は「うつ病」だった。それを聞いて私の中の何かが突然音を立てて崩壊していった。
「でも、私は全然そんな感じなくて、深夜二時まで起きるとか、いつも受験勉強してるときはそんな感じですし、一応ご飯食べてますし、お母さんは死んだけど、でも私的にはそんな病むまで行くほどショックじゃないっていうか。もちろん悲しいけど、うつ病になるほどじゃ、ないと、思うんですけど」
いつになく饒舌になった私は、うつ病という精神疾患が自分に当てはまっていないことを確認するようにして、言い訳を連ねた。
「ショックが感じられていないのは、感情が麻痺してしまっている状態だからです。お母様が亡くなったという大きなショックを対処するために、感情を切り離してしまっているんです」
もうその現実を受け入れるしか方法はなく、私は手を握りしめた。
「ここ一週間、睡眠はどれぐらいとれていますか?」
「えっと」
大体深夜の二時か三時に寝て、起きるのは朝の七時。
「五時間、ぐらい」
「今までどれぐらい寝てました?」
「七時間とか」
「確実に短くなっていますね」
その後も、質問をかなりされて、私は着々と自分自身が病気にかかっているのだと自覚していった。
「勘違いしないでいただきたいのが、うつ病は甘えではありません。れっきとした脳の病気です。ですから、しっかりと休息を取ってください。そしてうつ病は改善されるはじめるのは長くて六か月、学校に通うとか、そういう社会活動ができるまでになるには一年かかります。ですから、受験勉強も無理をしすぎない方がいいです。来年受験するという選択肢や、通信高校なども視野に入れておくといいかもしれません」
今年はもう、受験できないかもしれない。
じゃあ、今までの私の努力は何だったの?父親に散々勉強させられて、塾に通っている人にも負けないぐらい勉強して、学年主席をキープして、今一生懸命働いてくれているお母さんのために良い仕事に着きたくて必死で勉強して…
その時やっと私がここまで勉強に執着している意味が分かった。
ああ、そうだ。もうお母さんは居ないんだ。私はただ、お母さんのために勉強してたんだ。
「では次の診察ですが」
後の話は私の頭に入ってこなかった。すべて雑音に聞こえて、ほとんど叔父さんが話をしていた。
頭を垂らしたまま、私は叔父さんに腕を掴まれて、診察室から出た。待合室で座っている間私はずっとぼうっとしていた。
「私は、勉強出来なきゃ自分に価値が無いと思って、勉強してたんですけど、私が勉強に執着してたのは、お母さんのために給料の良い職業に就きたくて、旅行とか連れて行ってあげたくて。ずっと必死で勉強してたんです。やっと、分かりました」
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