第11話

「なんで私が」

 くぐもってきた雲、肌に触れる生ぬるい風、人の視線なんて気にしないで私は私のプライドを守らなければいけなかった。これ以上下に、私は落ちたくなくて必死だった。

「嘘をついてごめん」

 やっぱり、そうだった。

「でも叔父さんには、ユキちゃんの心身を健康を守る義務があるんだよ。それにいまはお母さんが亡くなって間もない」

 ふと冷たい風が吹いて、叔父さんの黒髪が揺れ耳にあるピアスホールが目に入った。軟骨、耳たぶにいくつも、ピアスホールがある。

「この短期間で、ユキちゃんまで死んだら、叔父さんはどうすればいいんだろう」

 今にも泣きそうな表情で困ったように笑っていた。その表情を私は知っている。

 手が強張って、糸のように細くて、きつい罪悪感に心を締め付けられた。そうして思わず左の手首を右手で握りしめた。

 なにもそれ以上言葉を交わさなかった。ただ黙って私は自動ドアをくぐり、手に消毒液を掛けて、消毒液を刷り込むようにしてこすった。

 アルコールの匂いが鼻を突き、また自動ドアを潜り抜けると病院内の受付を見てから、待合室を見渡した。

 みんな普通を装って、普通の人が黙って椅子に座っている。誰も何もおかしいところがない。

 受付をして、大きな縦長なのっぽの時計のすぐ近くの椅子に私と叔父は隣で座った。

「私、おかしいですか」

「ううん、叔父さんには分からないよ。ただお母さんも死んで間もない、見知らぬ土地に突然連れてこられたんだから、ストレスが無いわけがない。ただ叔父さんが心配性なだけなら、それでいいんだ」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る