第8話
「え?何歳?めっちゃ髪、綺麗じゃん」
「15、ですけど」
「わっか!まじ若!!俺27。15歳から見たら、俺とかおっさんっしょ。あ、喉乾いてない?薫さん、まじ美味い紅茶隠し持ってから、入れたげる」
自分の家であるかのように和希さんは台所に入っていき、ポットの中に水を入れて沸かし、食器棚からコップを取り出したり、紅茶のパックを棚から抜き出したりしていた。その間も言葉は止まらない。
「どこ住んでたの?」
「秋田県です」
「秋田、雪凄いんでしょ。薫さん屋根まで雪積もるとか言ってたけど、さすがに嘘っしょ」
「まあ、たぶんほんとだと思いますけど」
するとオーバーなリアクションをして「ええ!?まじ!?」と笑っていた。なんだかそれらの反応が気持ち悪くて、私は苦笑いしていた。
「あれ?姪っ子ちゃん名前聞いたっけ?名前何?」
「浅野ユキです」
「ええ、めっちゃ可愛い名前じゃん。肌も雪みたいに白いし、秋田が美人多いってマジじゃん」
私は今まで人に可愛いとか美人とか、そういうことを言われたことが無かった。母は私のことを可愛い可愛いと、言っていた。中学生になったというに、ずっと母は私のことを可愛い、美人と言い続けた。
この人の可愛いは偽りだって言うのはすぐに分かる。
でもなぜだか分からないけど、可愛いという言葉が頭に浮かんで流されて、涙があふれた。
「え?えっちょ、ユキちゃん?なんか俺言っちゃった?」
その時玄関の扉がまた開く音がした。そして今度は一人ではない、何人もの人が家の中に入ってくる。
「なんで、和希がここにいるんだよ」
顔をあげると、叔父さんと警察官二人がそこに立っていた。
「え!?警察?俺何もしてないスよ。てか薫さんがなんかしたんすか?」
〇
警察の人に話を聞いたところ、独り身の叔父さんが中学生の私のことを連れて家には言って行くところを見た近所の人が不信に思って通報したらしかった。私の生徒手帳と健康保険書、それから叔父さんの免許書などを見せ、私が今ここにいる事情などを話すと、丁寧に謝って帰って行った。
「一週間も帰ってこなかったんで、ちょっと心配してたんスよ。それでやっと帰ってきたかと思ったら、女の子一人しかいないし」
話が終わって、七時を回ろうとしていた時、食卓の上に置かれたのは、キーマカレーとサラダだった。私はスプーンで少しだけすくって食べた。とてもおいしい味だった。
「あっちでいろいろトラブルがあったんだよ。家庭裁判所にユキちゃんを一時的に保護するって報告したり、二日で家の中を片付けて荷造りしたり、ユキちゃんの父親説得したり」
「父親がいるなら父親に預ければよかったじゃないですか。ユキちゃんだってそっちの方が絶対よかったよね?」
思わずスプーンを持っていた手から力が抜けて、無言でキーマカレーを眺めたまま「別に」と空気を吐き出すような言葉が漏れた。そしてこれ以上話さなくてもいいように口にご飯とキーマカレーを詰めた。
「ご飯食べたら、お風呂に入ったら?長旅で疲れただろうし、ここずっと慌てて、大変だったからゆっくり寝て」
ご飯が口に詰まったまま、もごもごと「ありがとうございます」と頷いた。
「夜は、叔父さん居ないけど、朝の八時ぐらいになったら戻ってくるから」
食べ物を飲み込んで、スプーンを握りしめた。
「はい」
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