第7話

 扉から顔を出した叔父さんが手招きしたので、私はさっき入った扉を出た。そしてリビングダイニングのすぐ右手の扉が開けられて、叔父さんが入って行った。私もつられて中に入った。

「ここがユキちゃんの部屋ね」

 真っ白な部屋に白いエアコンが一つつけられているだけで、静かだった。

「明日には荷物が届くはずだから、そしたら荷ほどきして、必要なものを買おう」

「はい」

 その時、家の中に置かれていたらしい電話が鳴り出した。いつものことなのかと思って私は普通にしていると、なぜだか叔父さんはその電話の音に驚いていた。

「リビングでくつろいでて」

 とりあえず私はリビングへ戻って持ってきた着替えや歯ブラシを取り出して整理していた。

 電話はすぐに終わって、リビングへやってくると叔父さんは不安そうな表情を浮かべながら「少し外に行ってくるから。家の中見て回っていて」と颯爽と出て行ってしまった。

 知らない場所に一人取り残されてしまった私は、言われた通り勝手に家の中を見回って、トイレや洗面所の場所を把握していた。冷蔵庫の中も開けてみたりした。冷蔵庫の中ももちろん綺麗で、作り置きの料理が置かれている。

 最後にリビングのカーテンを開けて、大きな窓を見ると、そこでは町が少し高いところで見渡せた。

 ソファに座ってスマホでも眺めていようとカーテンを閉めた時、突然ピンポーンというチャイムが鳴った。

 誰だろうか。郵便?いや、見る感じ普通の人は入ってこれなさそうな感じだったけど。

 すると「すいませーん、薫さんいないんすか?」とこもった声で部屋の中まで響いてきた。扉を叩いてすらいる。

 怖くなって私は黙って窓の前に突っ立っていた。たぶんすぐいなくなるだろうから。

 でも私の予想に反して、扉が開く音がして人が入ってくる足音、そして「勝手に入りまーす」という若い男性の声が聞こえた。

 人が勝手に家の中に入ってくるなんて、そんなこと今までなかった。だから私は困惑し、パニックになり、ただ窓の前に立ってカーテンを握りしめていた。

「失礼しゃーす」

 リビングの扉が開いて入ってきたのは、金髪に黒のオーバーサイズの服を着て、ちゃらちゃらとしている男だった。

 私も男もしばらく訳が分からず見つめ合っていた。

「え?だれ?」

 先に言葉を発したのは男の方で、男も困惑して、入ってきた扉から戻ってみたり、扉を開けたり閉めたり、私を見たり考え込んでいた。

「叔父のお知り合いですか」

 絞り出すようにして、私はその言葉を出した。心臓がバクバクしていたし、頭が真っ白だったけど。

「叔父?えーっと、えと、薫さんの姪っ子ちゃんでいい?そゆこと?」

「はい、姪です。母が亡くなって引き取ってくださる親族が叔父しかおりませんでしたので、一緒に来ました」

「あ、ああ!そういう感じね。俺、GAUの幹部でホストしてます。柊和希と、申します」

 そう言って和希と言う人は私に名刺を手渡してきた。そこにはその人の顔写真と、名前が書かれている。ホストなんて会った事がないし、なんでホストの人こんなとこにいんの。叔父さんとどんな関係なわけ?

「薫さんに用事あってきたんスけど、今不在っスか?」

「なんか、出て行きましたけど」

「じゃあ、入れ替わりになっちゃった感じかよ。まじか、がちだりいな」

 今まで会ったことがない雰囲気な上に、ホストなんて、田舎から始めてきた私にとって未確認生命体すぎる。チャラいし、言葉遣いが適当だし、なんかめっちゃ香水臭い。

 さっさと出てってほしい。

「じゃあ、ちょっとここでまっててもいいスか?まじ、邪魔しないんで」

 いや、出てけよ!さっさと!私まだ未成年なんだけど。知らないホストと二人きりとか怖すぎる

「はあ、べつにいいですけど」


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