第5話
そこは別世界だった。まったく私が知らない世界。重いショルダーを肩にかけたまま、私はよろよろと叔父さんの背中を追いかけていた。駅の中は人がたくさんいて、駅だというのにお店が沢山ある。
駅の中にいろいろな店が入っていて、こんなショッピングモールみたいになって居るなんて私は知らなかった。テレビ番組で流れてきた駅構内のお店という意味が私はやっとわかった。
「あの、どこ行くんですか」
叔父さんは黒色のコートを揺らし、キャリーケースを引きずりながら迷いなく歩いていく。
「もちろん叔父さんの、家」
そりゃそうだ。それなのに私は全く迷路みたいなこの場所に不安を覚えて、聞かずにはいられなかった。
秋田県より小さいはずの東京という土地が、とても大きすぎる気がした。いや、実際大きい。でもそれが私には分かっていなかった。東京という言葉の響きだけが頭の中で独り歩きしていたけれど、今やっとここが東京で東京と言う場所がどんなところなのか分かってきた気がした。
カバンの肩にかける部分を握りしめて、私は駅の中を見渡していた。いろいろなところを見ながら注意散漫になって歩いていた。
サラリーマン、キャリアンウーマン、すごくきれいなモデルみたいな女性、私と同じ中学生が歩いていたり、家族連れ。
私は本当に狭いところに住んでいた。ここは別世界だ。
そして駅から出て、外を見た途端、私はスマホで写真を撮ってしまった。まるで地球の裏側にでも来てしまった気がした。
「タクシーで、家まで行くよ」
「タクシーって、初めて乗ります」
「田舎じゃ中々乗らないからね」
流れゆく東京の風景を眺めながら私は、少しだけ心が軽くなっていた。なんだかすごく、ほかに考えることが多すぎて、少しだけ母の死から離れることができたのかもしれない。
それに父とも離れたことで安心していたのかも。
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