第2-2話 舞浜莉子の戸惑い

 大田草彦は雪城花恋が好き。

 その事実は、あたしの胸に深く突き刺さった。


 あれから今この瞬間に至るまでの記憶が無い。

 大好きなアニメをリアタイ実況している時も、弟の朝食を用意している時も、学校で授業を受けている時も、ずっと上の空だった。


 それでも、不思議と花恋の言葉が頭に残った。


(……見たら分かる、か)


 授業中、何度も思い出す。


(……分かっちゃうよなぁ)


 ダブルデート企画を思いついた瞬間がピークだった。

 莉子ちゃんマジ天才と浮かれて、周りのことが見えていなかった。

 

(……花恋、よく見てるなぁ)


 なんか、大人って感じだ。

 落ち着いた雰囲気とか、上品な仕草とか……。


 やっぱり、ああいうタイプが男子にモテるのかなぁ。

 清楚というか、なんというか……正直めっちゃ分かる。


「舞浜さん、運動会の実行委員やってくれる?」

「……分かる」

「ありがと!」


 だってもうアニメじゃん。

 空気感が二次元だもん。超かわいい。


(……あ、チャイムだ)


 今日の授業、終わりか。

 ダメだ。なーんにも聞いてなかった。


「あっ、舞浜さん待って!」


 クラスの女子に呼び止められた。

 正直、今は会話したくないけど、笑顔で応じる。


「どしたん?」

「一緒に行こ」

「……どこに?」

「えっ、運動会の実行委員会だけど……」


 なにそれ。マジ知らん。

 混乱していると、相手の子がどこかを見た。


 その視線を追いかける。

 黒板。あたしの名前があった。


「あー」


 多分、適当に返事した。

 めっちゃ嫌だけど、今さら断るとか無理っぽい?


「ごめん。ちょっとぼーっとしてた」

「何それ。もしかして舞浜さん寝てた?」

「バレたか。あはは」


 正直あんまり仲良くない相手。

 名前なんだっけレベル。だけど雰囲気だけは楽しくする。


(……あたしのこういうところ、嫌だなぁ)


 顔は笑ってるのに心は激萎え。

 なんか……なんだろ……あたし、恋愛とか向いてないのかも。


 魅力ないよ。こんなの。

 外側ばっかりドーピングしても、内側が全然変わってない。


(……ダメダメ! 切り替えよう!)


 ネガティブは空気感染するからね!

 ポジティブに行こう! にっこにこ~!


 すると。


「うわっ、風間くんだ」


 こうなって。


「なんか最近よく会うね」


 ほんでほんで。


「体育館倉庫、湿度やばぁ」


 からの?


「……閉じ込められたな」

「……いやいや、そんなことある?」


 がんばる。

 マジで開かない。ギブ。


「風間くん、誰かに恨まれてたりする?」

「心当たりは割とある。とりあえずスマホ……」


 電源切れ?

 そんなことある?


「あはは、じゃあ、あたしが……」


 ……そんなこと、あるぅ?


 

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