第10話 青空デート ~風間×舞浜~
待ちに待った最終局面。
莉子と二人きりで過ごす十分ちょっとの時間。
俺は……
「それでね! 大田くんがね!」
……なんか、もう、消えてしまいたい。
「どうしよこれ!? あたしのこと好きすぎ!?」
全ての始まりは、俺が戯れに大田くんを口説いたことである。
高所恐怖症である彼は、恐怖から逃れるため、相手を見つめることを覚えた。
それを莉子に実践した。
そういう感じの惚気話を、莉子は嬉しそうに報告してくる。
どうにか話題を逸らすため、俺は別の話をした。
「莉子、ほら、相模湖が見える」
「それな! 聞いてよ! 大田くんがね!」
でも、こうなる。
全てがOになる。
時間を戻したい。
恐怖から逃れるため俯き続けるだけだったオタクくんを取り戻したい。
ふざけんな……!
なんで俺があいつをアシストしてんだよ!?
だが、落ち着け。
今さら後悔しても、もう遅い。
それに、焦ることは無い。
オタクくんの矢印は花恋に向いている。
俺には、不本意だが、彼をアシストした実績がある。
これを再現しろ。花恋に向けろ。あの恐ろしい女をオタクくんに押し付け、悠々と莉子を手に入れる。それが、俺に与えられた試練だ。
「オタクくん、俺のこと、何か言ってた?」
「なにも言ってなかったけど?」
「……そうか」
ぶち殺すぞクソメガネ。
「俺が莉子を応援するって言った話、覚えてる?」
「もち!」
「良い話があるんだよ」
「なになに!?」
莉子は無邪気に身を寄せた。
長い髪が揺れ、花恋とは違った香りが鼻腔をくすぐる。
俺は……正直ちょっと興奮しました。
不本意だがオタクくんのネタは使える。
ひらめいた。これを餌に、徐々に莉子の認知を歪ませ、俺の要求を通す。これだ。
「オタクくん、肌ケアに興味があるらしい」
「えー!? 何それ、めっちゃ乙女じゃん!」
「莉子、化粧品とか詳しいだろ? 色々と相談相手になれるんじゃないか?」
「なれりゅ! マジ神! 助かる!」
莉子は上機嫌になった。
ふっ、花恋を鎮めるために磨き続けたスキルが役に立ったぜ。
「風間くん、最近マジで印象変わったかも」
「ふっ、俺に惚れるなよ」
「あはは、きっしょ。なんでそんなナルシストなん?」
来た! 興味が俺に向いた!
内容はともかく、俺に関する話題だ!
だが焦るな!
ここで選択を誤れば、またオタクくんの話が始まる!
「俺は……」
「あっ! ねぇ見て! 大田くん達が見えるよ!」
……クソがよぉ!
「ほんとだ。手とか振ってみる?」
「マジそれあり。やほー!」
……はぁ、ほんと、なんだこいつ。
俺が隣に居るのに、他の男ばっかり見てやがる。
初めてだよ。
……こんな、屈辱。
(……おもしれー女)
無邪気に笑いやがって。
どれだけ俺をその気にさせるつもりなんだ?
だが、良い傾向だ。
そのまま油断しておけ。
この俺が、莉子を手に入れるその日まで……!
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