第3話 私が先に好きだったのに……
風間雅が膝から崩れ落ちる少し前。
彼が舞浜莉子を連れ込んだ空き教室の外に、大きなダメージを受けている別の生徒が存在していた。
彼女の名前は、
風間雅の幼馴染であり、ガチ恋勢でもある。
「……みーくんが、金髪ギャルに、壁ドン」
何か恐ろしいものを見たような顔をして、ふらふらとした足取りで廊下を歩く雪城花恋。
いや、実際に恐ろしいものを見たのだ。
彼女の脳は、とても強いダメージを受けている。
「……みーくんは清楚な子が好き。みーくんは清楚な子が好き。みーくんは清楚な子が好き」
美しい桜色の唇から、呪詛のような言葉がぶつぶつと吐き出される。
カンッ、と床を強く踏んだ音が鳴り響く。
花恋は真顔で虚空を見つめ、やがて口元を歪めた。
「……汚物は、消毒しないと、だよね」
その表情に恍惚の色が浮かぶ。
彼女は両の頬に手を当て、天を仰いだ。
「あはっ」
花が咲いたような笑顔。
しかし、綺麗な花弁は徐々に黒く染まる。
「……あんなみーくん、見たことない」
カチカチカチ、と歯を鳴らす。
「……私が先に好きだったのに」
頬に当てた手が、近くにあった綺麗な黒髪を摑む。
「……私が、一番好きなのに!」
強い怒りを感じさせる声。
しかし、その直後にまた笑みを浮かべた。
「……みーくん。みーくん。みーくん。あはっ」
彼女の脳裏には様々な考えが浮かんでいた。
その多くは、普通の人ならばブレーキを踏むような内容である。しかし、雪城花恋は躊躇わない。
彼女はスキップをするような歩調で移動した。
そして適当な位置で立ち止まって窓ガラスを見る。
「……かわいくない」
白い指を顔に当て、表情を矯正する。
それから前髪を整えて、かわいい笑顔を作った。
「……えへっ」
それは、雅の好みに合わせた表情。
綺麗な黒髪も、レイヤーカットでふんわり感を強調させた
彼が他の誰かを選ぶなら。
雪城花恋には、何も残らない。
「……みーくんのこと、絶対に渡さないから」
彼女は窓ガラスに背を向け、再び表情を歪める。
そして、カンッ、カンッ、と、大きな足音を鳴らしながら教室に戻ったのだった。
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