第三話 新入生

文献を発見してから一刻程経っただろうか。私も待つのに飽きて来た頃、必要な情報が揃ったとリーダーから声がかかった。

「やっと出られるのね!」

「またはしゃいで余計な事をされても困る。お前は俺とノエルの間を歩け」

「ええ〜」

「はは。この扉の先に階段があるみたいだから、一先ず出ようか」

相変わらずのやり取りに慣れて来たのか、ノエルは小さく笑いながら扉を開けて私達を先導した。


先程の地下室から続く狭い階段を上り切ると、そこは牢獄だったのだろうか。壊れた鉄格子の嵌められた空間に出た。

「こんな所にあの情報を隠してたなんて昔の人間も不用心だね」

「いや、あれは捨てられたんだろう。昔から竜人は伝承の存在とされていたようだな」

「でも、本当はいるんでしょ?」

「うん、最後に姿が確認されたのは五百年前らしいけど、記録から実在しているのは確かだよ」

竜人族の記録が捨てられていた理由は分からないが、リーダーの言う通り彼等は存在しているらしい。私達は先を急ぐべく、城の出口を目指した。


「二人共!待って……!」

「ノエル?どうしたの?」

大広間まで戻って来た所で、ノエルが私達を制止した。立ち止まってみると、こちらへ向かってくる複数の足音が聞こえた。

人間の足音と、ドォン、と何かを破壊するような音を立てて走る何かの足音が聞こえ、誰かが魔物に追われているのだと推測した。

「助けよう!」

「待てカリナ!あいつらはここに向かってる。待ち伏せをした方がいい」

助けに駆け出そうとした私の肩を掴んで、リーダーは待ち伏せを提案した。それに大人しく従って武器を構える。近付く足音に緊張が走る中、ついに音の正体が姿を現した。

最初に入って来たのは揃いの青いマフラーを巻いた男女の二人組。少し遅れてやって来たのは巨大な体躯に長い手、短い足をした毛むくじゃらの魔物。手には棍棒のようなものを持ち、それを振り回しながら周りの壁を破壊していた。

「アイス!」

ノエルが放った魔法で氷漬けになった魔物は一瞬足を止めた。その隙に駆け込んで来た二人と魔物の間に入る。すぐに復活した魔物の振った棍棒を、リーダーが剣で受け止めた。


「くっ……」

「リーダー!耐えて!」

私はリーダーを助けようと剣を振ったが、長い毛に阻まれてダメージを与えるには至らなかった。

「避けて!」

先程駆け込んで来た女の子がそう叫びながら飛び込んで来た。それを聞いて半身を開くと、そこに固く握られた拳が叩き込まれた。彼女の打撃に魔物の身体が傾く。その隙にリーダーも体制を立て直した。

「さっきの魔法、もう一回お願い!」

「任せて……!」

彼女は何か手ごたえを感じたらしく、ノエルにもう一度魔法を打つように頼んだ。氷の塊が再び魔物を覆うと、彼女は掌底を放とうとした。その寸前、もう一人の男の子が戦斧を振り下ろした。氷が崩れると共に攻撃は弾かれ、見事にカウンターを受けた彼はそのまま吹き飛ばされた。

「リカルド!あのバカ!」

「よそ見をしている場合じゃないぞ!」


リカルドと呼ばれた男の子を心配して振り返った彼女に迫る剛爪をリーダーがいなしながら檄を飛ばした。彼女もノエルが彼を支え起こすのを視界の端に捉えたようで、素早く魔物に向き直ると目にも止まらぬ速さで拳を打ち込んだ。

私も後に続いて攻撃を仕掛ける。合間に飛んでくるノエルの魔法やリーダーの剣も魔物には確実にダメージを与えていた。

「今だ!打ち込め!」

「はあぁあ!」

リーダーの合図で放たれた強力な掌底の一撃はとどめを刺すのに十分だったようで、魔物は巨体を揺らしながら倒れ、消滅した。

「リカルド!あんたあれほど連携をーー」

「うるせーよ!暴力女!」

「なっ、あんたねぇ!人が心配してるっていうのにーー」

恐らく彼等は親しいのだろう。だが、私とリーダーよりは二人の歳が近いのか、気軽に怒ったり言い返したりできる関係を少し羨ましいと思った。


「ごめんなさい、挨拶が遅れたわ。私はレイチェル。こっちは幼馴染のリカルド。さっきは一緒に戦ってくれてありがとう」

「俺はやれるって言ったのに……」

レイチェルと名乗った彼女は丁寧にお礼を言うと未だ文句を垂れるリカルドの頭を抑え、共に頭を下げた。

「ねぇ、レイチェル。リカルド。あなた達も一緒に来ない?」

「「え?」」

私は、二人に結界が閉じた恐らくの理由、これから目指す竜人族の村のこと、先程の戦闘を見て二人の強さを確信したことを話した。二人は少し顔を見つめ合い、こちらへ向き直った。

「じゃあさ、その竜人族ってのを見つければ、俺達は故郷に帰れるってこと?」

「実際に会ってみないと分からないけどね」

「リカルドが一人で突っ走って迷惑かけなきゃいいけど」

「俺は迷惑なんかかけねーよ!」

「じゃあ連携を覚えてくださーい。いい機会みたいだし」

「その点は俺も協力しよう。複数で戦う時は連携が大切だからな」

なんだかんだ上手く話がまとまり、二人も仲間に加わることになった。リーダー曰く、リカルドの腕力は一目置くものがあるので考えなしに突っ込む所を直せばもっと強くなれるとのことだ。どうやら彼の指導者スイッチが入ってしまったようで、その頭の中は既に特訓メニューでいっぱいなのだろう。考えたくもない。

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