第4話 エージェント・スミス

 ヴァニーも、アーウィンに慣れ、木星にも近づいたころ。実戦という事実も、うまく消化できているようだったが、心が落ち着かない。臨戦態勢というのだろうが、本来人間は、そのような状態に長く身を置くようにはできていない。

 木星の衛星の一つの周りを周回する人工衛星"ノデレロ"収容人数2万人の、木星開発の拠点であったそこだが、今はもう音信不通で、アトラスに同行している揚陸艦"ノーチラス"に乗艦している、歩兵大隊による、調査が行われた。その結果、生存者は0だった。さらに不気味なことに、死体が一つも上がらなかったというのだ。アニマルセラピーのために飼育されていた、数匹の犬が餓死していただけでノデレロの中はもぬけの殻だった。


 木星周回軌道


 アトラスとノーチラス、そして情報部の艦は、先発隊が撃破された地点の裏側にいた。そこは、木星開発の基地がある場所の上空であった。アトラスが、軌道上で未知の勢力と戦闘をしている間に、大気圏突入能力のあるノーチラスが、基地に突入する。それが上層部の立てた作戦である。第1小隊が先発し、露払いをして、第2小隊が、護衛をしながら、突っ込ませる。そういうことになった。

 全艦に第二種戦闘配置の命令が出た。ヴァニーはアーウィンのコックピットで目を瞑っていた。アーウィンにはキャノピーはない。その代わり、VRゴーグルによって、周囲を視認する。彼は、コックピットの狭い空間は居心地が良いと思える質だったがこれだけはどうも違和感がぬぐえなかった。

 しばらくして、第一種戦闘配置が命令された。SFのハッチが次々と下ろされ、ヴァニーはゴーグルをつけた。カタパルトに固定されて、出撃の時を待っていた。

 「作戦宙域に、間もなく到達する。会敵した場合は、武器の無制限使用を許可する。第1小隊、出撃せよ。」

ダニエル作戦司令の命令にあわせて、最初にヴァニーのアーウィンが、宇宙に押し出された。続いて、小隊の僚機が、4機出撃した。編隊を組んだ彼らが加速をかけ、巨人のいると思われる場所へ、向かっていった。

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