第2話 ジャック・ダニエル小将

 ヴァニーはジャック・ダニエル作戦司令の部屋に呼ばれた。

「ああ、楽にしてもらって構わん。公式な会話じゃないからな。何ならどうだ、座るか?」

彼は、その提案を断った。いくら何でも相手は少将である。ダニエルの腰かけているソファーは本物の木でできているようだった。

「本来君が知るべき情報ではないのだが、一応当事者だからな、教えてもいいだろう。君の機体だがな、情報部が直接持ってくるらしい。」

彼の口から、その言葉が出たときヴァニーの体に力が入った。情報部、彼も詳しくは知らないが、あまりいい噂は聞かない。きっと彼より階級の高い者たちしかいないだろう。

「火星の軌道上を周回しながら、君たち戦闘機隊の機種転換訓練を行う。そのタイミングで情報部の船とランデブーすることになるだろうから、それまではシミュレーターで、感覚を掴んでくれ。まあ、きみたちなら大丈夫だろう。」

話を終えたダニエルは退室するよう促した。ドアの開閉ボタンに手を伸ばしたヴァニーに声をかけた。

「ああ、そうだ、2小隊の隊長を呼んできてくれ。」

 今回、アトラスのSF部隊は2つの小隊で構成される。ヴァニーが率いる第1小隊と、ファンス・フォウ・アンブラー中尉の第2小隊である。第2小隊は、海軍所属らしい。軍の組織統合のうわさは聞いていたが、その実験というだけではないような気がしている。まして、情報部が絡んでいるというのが、より怪しさを増している。


 火星周回軌道


 ヴァニーたち、第1小隊が、動けない間にも、第2小隊は訓練飛行や、ローテーションの哨戒任務を行っていた。

「空軍のお嬢さんたちに、お手本を見せてやれ!」

ファンスは、空軍から来た第1小隊に、対抗意識があるようだ。船乗りとは、そういうものなのだろうか。ヴァニーは付き合うつもりはないが、戦場で共に戦うことに、少し不安を覚えた。

 アトラスが、宇宙に上がってから、二週間が経ったその日は、ほとんどの乗組員に、居室待機が命じられていた。ヴァニーは、SFを受領することになった。

「スミスだ。」

宇宙には似合わないスーツとサングラスを纏った男はそう名乗った。階級も言わないようだ。外からはわかりにくいが、スミスのスタイルのよい体の中には、かなりの筋肉が詰まっているだろう。ヴァニーも取っ組み合いでは勝てないだろう。

「これを。」

彼が、差し出してきた書類は、紙にタイプライターで書かれていた。

「いろいろ不都合があるからだ。不便だが理解してくれ。」

受け取ったヴァニーが困っていると、スミスが声をかけた。

 "XYSF-64"アーウィン、ヴァニーが乗ることになるSFが届いた。外見はスターランチャーとあまり変わらないが、データによると、レーザー不可視光線銃が、搭載されているらしい。ヴァニーは、少年心が躍った。それと同時に何と戦うことになるのか、ますます、気になった。

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ディスカバリー作戦 五月山 明夫 @sastukiyama

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