患者の処置記録 #1

酒林さかばやしちゃん、患者の容態は?」院長の鹿沼かぬま先生が聞いてくる。

「はい、依然として昏睡状態が続いています。」


「そうか…いやぁ参ったなぁ……」鹿沼先生は禿げ上がった白髪頭をぽりぽりと掻きながらぶつぶつとなにかつぶやき、現状を再度分析している。


 10月31日、世間がハロウィンで賑わう中、原因不明の病気により昏睡した人が現れた。それから昏睡した人は徐々に増えていき、11月現在、ついに患者は日本だけで10万人を上回ることとなった。

 

 昏睡以外の症状は確認されていないが、だからこそ不気味なのだ。世間では「昏睡ウイルス」と呼ばれて持ちきりだ。現に今も、テレビには昏睡ウイルス関連のニュースが流れている。

 

 「酒林ちゃん、私はこのわけの分からない病気を解明したいんだ。そして、この夢に囚われた人々を救いたい。君も手伝ってくれるな?」鹿沼先生は、この病気を初めてニュースで見たときからずっとこんな調子だ。


「はい、もちろんお手伝いさせていただきます」ただ、未曾有の病気に苦しめられている病人やその親族をいち早く救いたいという気持ちは、同じ医者として同じだ。


 『速報です!昏睡ウイルスの患者が目覚めたとのことです!』

「何っ!?酒林ちゃん、音量あげて!」目を見開いて鹿沼先生がテレビに駆け寄る。それもそのはず、

『昏睡ウイルス患者が目覚めた事例は今回が初めてです!』


§


 その日は丸一日その関連のニュースばかり放送されていた。すこしずつ詳細が判明した。


 まず、患者が目覚めたのは患者の親族が必死に呼びかけたためであるということ。そして、その後患者は錯乱して叫び、暴れまわったため、隔離病棟に送られたということだ。


 医療関係の知り合いによると、錯乱したときに叫んでいた内容はその人のトラウマと関係があったのだとか。私はいわゆる「寝ぼけ」を強めたような症状だと思った。


 その患者は、何か夢を、悪夢を見ていたのかもしれない。

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