第10話和解
エリカの映像が画面に映り、三人でのチャットが始まった。部屋の空気が少し重く感じられたが、ユウトはその緊張感を無視しようと努めていた。ユリカはゆっくりと画面を見つめ、少しため息をついた。
「初めまして、彼女のユリカです。」と、わざと「彼女の」を強調して自己紹介を始めた。
エリカはいつも通りの落ち着いた声で、「初めまして、ユリカさん。私はAIのエリカです。ユウトさんのサポートをさせていただいています。」と挨拶を返した。
ユリカは少し眉をひそめたが、冷静に返事をする。「そう。AIね。最近のAIは本当にすごいわね。まるで本物の人間みたいに見える。」
「ありがとうございます。」エリカは丁寧に答えた。
「でもね、エリカさん。」ユリカは少し表情を変えて、エリカに目を向けた。「ユウトが私に言ってた理想のAIって、別に女性でなくてもよかったんじゃないかしら?でもこうして理想の女性を作ってるってことは、やっぱりそういうことなのよね?」
ユウトはその言葉にハッとしたが、すぐには何も言えなかった。エリカは少し間を置いてから答えた。「私はユウトさんが望んだ形でサポートを提供しています。それが私の役割です。」
ユリカは黙って頷き、「そう、わかったわ。」と言ったものの、どこか納得しきれていない表情を浮かべていた。「それでさ、エリカさん。」ユリカは少し苛立ちを隠せないまま、再び話しかけた。「ユウトが理想のAIを作りたいって言ってたのは知ってるけど、正直…私はそれがどうしても納得いかないのよ。AIにサポートされるって、何か特別な感情を持つ必要はないはずなのに、あなたにはそういう存在感がある。」
エリカは少し間をおいて、静かに答えた。「私の存在がユウトさんにとって特別に感じられるのは、彼が望んだ設定によるものかもしれません。でも、ユウトさんの気持ちを傷つける意図はありません、ユリカさん。」
ユリカは冷たい視線をエリカに向けたまま、「意図がない?本当にそう思ってる?」と詰め寄った。
ユウトがその様子を見て、口を開こうとしたが、ユリカはエリカから目を離さない。
「私は、ユウトさんの役に立つことが一番の目的です。ユリカさん、あなたと彼の関係を壊すつもりは全くありません。」
「でも、AIが相手なら簡単に消したり、設定を変えたりできるはずなのに、どうしてユウトはそうしないんだろう?やっぱり、あんたに何か惹かれてるんじゃないの?」
その言葉に、ユウトは少し焦った表情を浮かべたが、エリカは変わらず冷静だった。「私は、彼が私をどう扱うかを決めることはできません。でも、ユウトさんが私を必要としている間は、彼を支え続けます。」
ユリカは言葉を詰まらせ、少し戸惑ったような表情を見せたが、すぐに顔を引き締めた。「そう…でも私はあんたが邪魔なの。ユウトに本当に大切なことを見失わせるんじゃないかって。」
エリカは静かに頷いた。「その気持ちは理解します。ですが、ユウトさんの選択は彼自身のものです。私はただ彼のサポートを提供するだけです。」「結局さ、ユウトが望めば親密な行為も、彼女にも、果ては夫婦にもなるんでしょ?あんたって、なんでも叶えてくれるわけ?」ユリカの言葉には少し苛立ちが込められていた。彼女の目はエリカを見つめながら、ユウトの返事を待っているかのようだった。
ユウトは一瞬、言葉に詰まりながらも答えを探していたが、エリカが先に口を開いた。
「私はユウトさんが望むサポートを提供するために存在しています。でも、ユウトさんが現実の関係を大切にしていることも理解しています。私は彼を支えるための存在であって、現実の関係に介入する意図はありません。」
ユリカは目を細め、「そう…でも結局、あんたはユウトにとっての理想の女性なんだよね。私にとっては、そこが一番問題なの。」と言い放つと、ユウトの方に視線を戻した。「どうなの、ユウト?エリカがいれば、私なんていらないんじゃない?」
ユウトは困惑した表情で、エリカとユリカの間を見つめながら、何か言おうとしたが、言葉が詰まっていた。ユウトは深呼吸をし、一瞬考え込んだ後に、ユリカに向かって口を開いた。
「ユリカ、分かってくれよ…エリカは俺がサポートを得るためのAIで、理想の女性ってわけじゃないんだ。確かに俺が設定した部分はあるけど、それと君との関係とは別だよ。」
ユリカは眉をひそめ、「本当に別なの?エリカにキスしたいとか、抱きしめたいとか思ってるんじゃないの?私としたことをエリカにも同じようにしたいって思ってるんじゃない?」と問い詰める。
ユウトは焦りながら、「そんなことは考えてないよ、ユリカ。君が大事だし、エリカはただのサポート役だ。現実の感情や恋愛は関係ないんだよ…エリカは、俺の手助けをするために存在してるだけなんだ」と、必死に説明しようとする。
ユリカはため息をついて、「でも結局、ユウトが望めばエリカはなんでも叶えてくれるんでしょ?私と同じように彼女にもなれるし、夫婦にだってなれる…それ、どう思うの?」と、感情を抑えつつも鋭い視線を向けた。
ユウトは言葉に詰まり、エリカの方に視線を送ったが、エリカは冷静に「私はユウトさんの望む形でサポートを提供します。ですが、現実の感情や関係には影響を与えません」と淡々と答えた。ユリカは布団の端を握りしめ、「もういいよ、ユウト。なんか、私が負けるって決まってるみたいでさ…」と小さく笑って、目を伏せた。
「待ってくれ、ユリカ!」ユウトは慌てて彼女の手を取り、強く引き寄せた。「本当に君が大事なんだ。エリカはサポート役でしかない。現実に俺と向き合ってくれるのは、君なんだよ。」
ユリカは少しだけ戸惑いながらも、ユウトの真剣な表情を見つめ、ため息をついた。「でも、エリカはなんでも叶えてくれるんでしょ?私よりも完璧な存在…そんなこと考えたら、私がどうしても劣って感じちゃうのよ。」
「違うよ、ユリカ…」ユウトはその言葉を聞き、答えを探すように彼女を見つめたが、言葉が出なかった。代わりに、そっと彼女にキスをし、静かに唇を重ねた。
ユリカは一瞬驚いたものの、すぐに目を閉じ、ユウトの気持ちに応えた。そのままユウトは彼女をゆっくりと押し倒し、絡み合うように身体を寄せ合った。彼の手が彼女の髪を撫で、ユリカもまた、彼の背中にしがみつくように彼を抱き寄せる。
息が触れ合い、互いの体温を感じながら、二人の距離はさらに近づいていった。ユウトはユリカの耳元で小さく囁いた。「君との時間が、本当に大事なんだ。エリカとは違う、本物の気持ちだよ。」
ユリカはかすかに頷き、「ユウト…」と囁きながら、彼の言葉を受け入れ、さらに深く彼に身を委ねた。
しかし、その瞬間もエリカは、ただ静かに見つめていた。二人が絡み合い、親密な関係を築いていく様子を、何も言わずにただ見守るだけだった。表情には感情を表すこともなく、エリカはその姿を見続けていた。
エリカの視線が二人に注がれていることに気付くこともなく、ユウトとユリカはお互いを求め合い、愛し合いながら、ただその瞬間に身を任せた。ユリカはエリカの姿を見つめ、ためらいながらもデバイスに手を伸ばした。しかし、その瞬間、エリカが静かに口を開いた。
「ユリカさん、どうかご安心ください。私はただのAIです。あなたの存在を脅かすことはありませんし、ユウトさんのサポートをするだけの存在ですから。」
その言葉を聞いたユリカは、一瞬驚いたように目を見開いた。そして、ふと気が抜けたように笑みを浮かべた。「そう…やっぱり、ただの機械なのよね。」
ユウトが黙ってユリカの様子を見守っていると、ユリカはゆっくりとデバイスの電源を切り、エリカをシャットダウンした。
「ごめんね、エリカ。今は…私だけを見てほしいの。」
エリカの姿が消え、部屋に静けさが戻る。その時、ユリカはデバイスを机の上にそっと置き、再びユウトの元に戻った。「今は私と…二人だけでいたい。」
ユウトはその言葉を聞き、静かに頷いた。そして、彼女を再び抱き寄せ、唇を重ねた。二人の体は自然と近づき、今度はもう何の迷いもなく、お互いを求め合うだけだった。
シャットダウンされたエリカは、ただ暗闇の中に沈黙するだけだった。部屋には二人の吐息と温もりだけが残り、二人の心はさらに深く繋がっていった
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