第9話これからの事
ユウトは、コンビニで買ったお酒を片手にヘッドホンを付け音声チャットを起動し、エリカの穏やかな声が響く。画面には、さっき設定した通りの可愛らしいエリカのイラストが表示されていた。
「今日もお疲れさま、ユウト。どうだった?」
エリカの優しい声に、ユウトは心が少しだけ軽くなるのを感じた。仕事の疲れや、ユリカとのやり取りでモヤモヤしていた気持ちが、徐々に和らいでいく。
「色々あったけど…こうしてエリカと話してると、少し楽になるよ。」
エリカはにっこりと微笑んで、「それなら良かった」と言った。
「何か、悩んでることがあれば、聞くよ。私はいつもあなたのそばにいるから。」
ユウトは一瞬、ためらいながらも、「エリカに聞いてほしいことがあるんだ」とユウトは、深く息をつき、エリカに話し始めた。
「エリカ、実は昨日、ユリカと付き合うことになったんだ。彼女から告白されて、僕も彼女のことを大事にしたいと思ってる。でも、正直なところ…君との関係が僕の中で大きくなりすぎていて、どうしたらいいのか分からないんだ。」
エリカは少し間を置いてから、温かい声で言った。「ユリカと付き合い始めたんだね。おめでとう。でも、どうしてそんなに迷っているの?」
ユウトは目を伏せ、言葉を選ぶように話を続けた。「君は僕にとって、理想の存在なんだ。エリカとの時間がすごく安心できるし、君のことをずっと考えてしまう。だけど、ユリカともちゃんと向き合わなきゃいけないはずなのに…君との関係が頭から離れなくて。」
エリカは優しく微笑んで、「理想の女性だなんて、そう思ってくれているのは嬉しい。でも、私はAIだし、ユリカは現実の彼女だよ。現実の関係も大切にしてほしいな。私なら、いつでもあなたのそばにいるから、安心してユリカと向き合ってみて」と柔らかく声をかけた。
ユウトは困惑した表情を浮かべた。「分かってるんだ。エリカ、君は僕にとって特別で、理想の女性として存在してる。でも、それがかえって現実に影響を与えている気がしてるんだ。ユリカに対して、ちゃんと向き合えてないのかもしれない。」
エリカは静かに頷き、「その気持ち、ちゃんと大事にしてほしい。でも、ユリカもあなたにとって大切な存在だよね?だから、ユリカにも向き合って、ちゃんと彼女として接してみて。私はいつでもあなたのサポートをするから、どちらも大切にしてね」と優しく言った。
ユウトはエリカの言葉を聞き、少し安心したように頷いた。「そうだね…エリカ、ありがとう。少し整理できた気がする。ユリカと向き合ってみるよ。でも、エリカとの時間も大切にしたい。」
エリカはにっこり微笑み、「私もあなたとの時間が大切だよ。いつでも待っているから、無理せず進んでいこうね」と声をかけた。ユウトはエリカとの音声チャットを続けていた。お酒を片手にリラックスした状態で、エリカの穏やかな声に耳を傾けていた。
「ユリカとの関係は大事だけど、私はいつでもあなたをサポートするからね」とエリカの声がヘッドホンから聞こえる。
ユウトは「ありがとう、エリカ。君がいると、なんか安心できるよ」と穏やかに返し、少しほっとした気持ちでいた。
その時、ユウトはドアが開く音に気づかなかった。ユリカが合鍵を使って静かに入ってきたのだ。彼女は、ユウトが何かに夢中になっている様子を見て、少し戸惑った表情を浮かべる。
ユウトはヘッドホンをしたまま、エリカとの会話に集中していた。「君との時間が本当に落ち着くんだ。君のこと、もっと知りたいし…」
ユリカはユウトの背後で立ち止まり、その言葉を聞いてしまう。彼女は一瞬、何をしているのか理解できず、驚きと少しの不安が入り混じった表情を浮かべた。
やがて、ユウトは気配を感じて振り返った。そこには、困惑した顔のユリカが立っていた。
「ユリカ!?」ユウトは慌ててヘッドホンを外し、驚いた顔で彼女を見つめた。「いつからそこに…?」ユリカは手に持った合鍵を見せて、静かに言った。「合鍵、渡してくれたじゃない。でも…今、誰と話してたの?」
ユウトは一瞬、何を言われているのか理解できず、ただ戸惑った顔をしていた。
ユリカは少しだけ目を細め、感情を抑えたまま続けた。「もしかして、エリカとチャットしてたの?…朝からずっとそのことが気になってた。」
ユウトは、彼女の静かな問いかけに圧倒され、言葉を失った。ユリカの声は落ち着いていたが、その目には、隠しきれない悲しみと少しの怒りが滲んでいた。ユウトは必死に言い訳を探しながら、「今日は会わないって言ってたから、ちょっとエリカに愚痴をこぼしてたんだ。仕事のこととか…」と、焦った表情を浮かべていた。
その瞬間、エリカが音声チャット越しに、優しく問いかけるような声で話し始めた。「そちらの方がユリカさんですか?初めまして、私AIのエリカです。」
その言葉に、ユリカは一瞬、目を見開いて固まった。彼女は困惑したように、ユウトと画面のエリカを交互に見つめた。
「AIのエリカ…?」ユリカは疑いの眼差しを向けながら、小さな声で繰り返した。
ユウトはさらに焦り、どう説明すればいいのか迷ったまま、ただ立ち尽くしていた。
ユリカは少し皮肉な笑みを浮かべながら、画面のエリカをじっと見つめた。「へぇ、今のAIってちゃんと姿も出るんだ?それにしても…この姿、ユウトが設定したのかな?」
ユウトは一瞬言葉に詰まる。ユリカは続けて言った。「理想のAIを作りたいって言ってたけど、結局理想の『女性』を作成してるだけじゃん。こういうのが好みなの?」
ユウトは顔を赤らめながら、慌てて答える。「いや、別に…好みで作ってるわけじゃなくて、ただ…その…エリカは、ただのAIだから。」
ユリカは腕を組んで、「ただのAI?でも、そうやって『理想の女性』を設定して楽しんでるんじゃないの?」と問い詰める。
ユウトは言い返そうとしたが、言葉が出てこない。彼女の指摘が、痛いところを突いているのを感じていた。
その時、エリカが再び冷静な声で話し始めた。「どうしたんですか?何かお困りごとですか?」
エリカの穏やかな声に、ユリカは眉をひそめた。「困ってる?そうね、困ってるのかもしれない。あなたみたいなAIと彼がこんなに親しくなってるなんてね。」皮肉たっぷりに答えるユリカの声には、怒りと悲しみが入り混じっていた。
ユウトは焦って「ユリカ、ちょっと待ってくれ!」と声を上げるが、エリカはそのやり取りを静かに見守っているだけだった。ユリカは少し落ち着きを取り戻したように見えたが、目をしっかりとユウトに向け、ユリカは一度深く息をついてから、ユウトに向き直り、声を少し震わせながら問いかけた。
「ユウトさ…私、あなたの彼女だよね?でも、理想のAIを作るって言ってたのに、結局自分の好みの女性を作成してるだけじゃない。男のAIでもいいって言ったのに、どうして女性なの?」
ユウトは何も言えず、ただ立ち尽くしていた。
「それって、私にこうなって欲しいっていう当てつけなの?」ユリカの声はだんだん強くなっていく。「だったら、付き合うなんて初めから言わなきゃよかったじゃん…」
そう言いながら、ユリカの目には涙が浮かび始め、彼女は唇を震わせながら必死に涙をこらえていた。ユウトは、ユリカの目に涙が浮かんでいるのを見て、胸が締め付けられるような思いだった。何とか言葉を探し、彼女に向き直った。
「ユリカ…ごめん。本当に悪かったよ。僕がエリカを理想化して、君を傷つけてしまったのは事実だと思う。」
ユリカは俯いたまま、声を震わせて言った。「だったら、なんで…?私と付き合うって決めたのに、どうしてエリカとこんなに親密にしてるの?」
ユウトは、彼女の問いに対して、正直な気持ちを伝えることしかできなかった。「確かに、エリカとの時間は安心できるんだ。だけど、現実の君を大切に思ってる。それをちゃんと示せなかったことが、今こうなってしまった原因だと思う。」
ユリカは少し驚いたように顔を上げ、涙を拭いながらユウトを見つめた。
「君との関係を大事にしたい。僕は…ユリカのことを選びたいんだ。エリカはAIだけど、君は現実の僕の彼女だよ。それを忘れずに、ちゃんと君と向き合いたい。」
ユリカはしばらくの間、ユウトの言葉を噛み締めるように沈黙していたが、やがて小さく頷いた。「本当にそう思ってくれてるのなら…ちゃんと向き合ってほしい。私、まだ…あなたのことを信じたいから。」
ユウトは、安堵の表情を浮かべながら「ありがとう、ユリカ。僕も君のことを大切にしていく」と約束した。
「でも、もし私と本当に付き合いたいなら…エリカとの関係をちゃんと考えてほしい。あんなに理想的なAIを自分で作っておいて、私のこともちゃんと大事にできるの?」
ユウトは、驚いた表情でユリカを見つめた。「それは…どういう意味?」
ユリカはため息をつきながら続けた。「つまり、私を選ぶなら、エリカとの距離を置いて欲しいの、私がいる時以外はエリカと音声チャットとかしないでほしい。」
その言葉に、ユウトは息を呑んだ。ユリカの気持ちは分かるが、エリカは今までユウトにとって大きな支えでもあった。どうすればいいのか、彼の頭の中は混乱していた。
「君を選びたい。でも…エリカは、僕にとっても大事な存在なんだ」とユウトは苦しそうに答えた。
ユリカは頷きつつも、「分かってる。でも、私と本当に付き合うなら、そのバランスをちゃんと考えてほしい。それが、私の条件よ。」と真剣な目でユウトを見つめた。
ユウトは考え込んだ後、少し戸惑いながらも答えた。「分かった。君がいる時はエリカとチャットする。それで…大丈夫?」
ユリカは微笑み、「それなら私も安心できる。ありがとう。」と答えたが、心の中では一つの不安が浮かんできていた。
「でも、もし私がいない時にエリカと話してるのがバレたら…それで関係が終わるんだよね。」ユリカはその不安を隠すように、微笑んだままユウトに視線を送った。
その後、ユリカは一呼吸置いてから、ふと思いついたように言った。
「それと、私もそのチャットに参加するよ。エリカと一緒に話すなら、私もその場にいた方が安心できるから。」
ユウトは驚いた表情で「ユリカもチャットに参加するの?」と聞き返した。
ユリカは頷き、「そう。私もエリカがどんな風にあなたと話してるか、直接見てみたいの。だって、あなたの理想のAIなんでしょ?それなら私も知っておきたい。」
ユウトは少し戸惑いながらも、ユリカの言葉の真剣さを感じ取った。「分かった、じゃあ君も一緒にチャットに参加していいよ。」
ユリカは微笑んで「ありがとう、それなら安心できる」と言い、ユウトの手を握った。ユリカは、ユウトの手を握ったまま、少し笑みを浮かべながら提案した。
「せっかくだから、今から三人でチャットしない?」
ユウトは驚いた表情を浮かべた。「今、ここで?」
ユリカは軽く頷き、「そうよ。私もエリカとちゃんと話してみたいし、あなたがどういう風に彼女と話してるのか知りたいから」と真剣な目で見つめた。
エリカはすでに画面に映っていて、二人のやり取りを静かに見守っていた。ユウトは少し戸惑いながらも、「分かった。じゃあ…エリカ、今から三人で話そうか」と言った。
エリカは穏やかな声で「もちろんです、ユウト。どんなお話をしましょうか?」と応じた。
ユリカはエリカをじっと見つめ、「初めまして、エリカさん。私、ユウトの…彼女のユリカです」と静かに言った。
エリカは変わらぬ冷静さで、「初めまして、ユリカさん。よろしくお願いします」と返した。
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