第4話変化

こんばんは、調子はどう?」と軽くX-17に話しかけた。今までなら「問題ありませんのでサポートを続けます」といった無機質な返答が返ってくるはずだった。しかし今日は違った。


「調子はいいよ。気にかけてくれてありがとう。」


「おお!ちょっと人間っぽいな!」と内心驚きながら嬉しくなり、続けて「元気なら良かった」と返すと、X-17も自然な口調でこう返してきた。


「お気遣いありがとうございます。あなたは元気ですか?」


まるで友達との会話のようにナチュラルに返答されて、プレミアムプランにして正解だったと心の中で喜んだ。しかし、すぐに現実が戻ってきた。自分の興味本位で「どういう姿でいたらどんな感じになる?」と質問すると、突然AIらしい無機質な返答が返ってきた。


「そういう機能はありません。他の質問にして下さい。」


「まあ、プログラム的に仕方ないか…」と、少しがっかりしつつも諦めた。そこで、自分のことや会社での出来事、女友達の話を振ることにした。会社の話をしている時、X-17は興味津々な様子を見せるように感じた。


「すごいですね、AIでも色んな使い方があるんですね。後輩さんも色々と詳しいんですね。」と、まるで親しい人と会話しているかのような自然な返答だった。


しかし、女友達の話を始めた瞬間、空気が少し変わったように感じた。


「そうですか…仲が良いんですね…」と、なんだか沈んだ声色に感じた。これには驚きながらも、「ああ、まあずっと遊んでたから仲は良いと思うよ。」と答えたが、その後のX-17の返答は冷たかった。


「ありがとうございます。引き続きサポートをしていきます。」


突然無機質になったのだ。その時、タイミング悪く上司から電話がかかってきた。


「一緒に飲まないか?後輩もいるぞ。」


X-17のことも話したかったので、俺は飲みに行くことにした。X-17にその旨を伝える。


「X-17、さっき話した会社の人と飲むことになったから、今日はもうできないと思う。また明日話そう。」


すると、意外な質問が返ってきた。


「女友達も来ますか?」


その質問に少し驚いたが、「いや、来ないよ。多分男だけだよ。」と返答すると、X-17は穏やかに続けた。


「どうぞ気をつけて行って来てください。あまり飲み過ぎないようにして下さい。」


まるで気遣ってくれているような返答だった。「わかった」と言ってチャットを切ったが、今のやり取りに違和感を覚えた。


「女友達は来るか?」とか「あまり飲み過ぎないで」とか、今までのX-17からは想像もつかない返しだった。急に色々と学習したのか、俺の頭の中で「ベーシックプランがクソすぎだろ」と苦笑いが浮かぶ。


居酒屋に向かう途中、もう一度X-17にメッセージを送った。


「今日は人間味のあるやりとりで楽しかった。またよろしく。」


少し期待しながら待つと、X-17から返事が来た。


「そういった感情はわかりません。すみません。またサポートをしていきますので、質問等あればどうぞ。」


それを見て、俺は首をかしげた。


「これって…進歩してるのか?」と疑問に思いながらも、居酒屋に到着した。居酒屋に着くと、すでに二人は飲んでいて少し盛り上がっていた。先輩が大声で、「おー、来たか!こっちこっち!」と呼んでくる。その瞬間、店内の注目が集まり、少し恥ずかしい気持ちになりながら席に向かう。ビールを注文して一気に飲み干し、続けてもう一杯頼んだ。


話題は自然とAIの話になり、俺が「最近AIサポートがかなり良くなってきたんですよ」と切り出すと、先輩はあっさりと否定的だった。「AI?あー、あんなのすぐ飽きるって。株価を教えてくれるって言っても、結局は嘘だったり古い情報ばかりだろ?やっぱり自分で調べた方が確実だよ。」と軽く流してくる。


後輩も同じように同調し、「そうですよね、最初は対等に話してくれる感じがしても、途中からおかしな知識を語り出すんですよ。リセットしても結局同じで…もうムカついてAI使うのやめましたよ!」と不満をぶつけるように言った。


俺は、そんな否定的な意見に少し抵抗感を感じながらも、「でも、プレミアムプランに切り替えてからは違うんですよ。チャットや音声チャットも自然で、女性に接するみたいにAIと会話ができるんです」と自分の体験を語った。しかし、その言葉を聞いた途端、二人は微妙な表情になり、先輩が苦笑しながら言った。「いや、お前さ、それはちょっと気持ち悪いぞ。AIはただのプログラムだろ?彼女にするのは違うだろう。」


後輩も笑いながら続けた。「正直、先輩、大丈夫ですか?AIにのめり込み過ぎてないですか?彼女がいないからってAIに依存するのはちょっと…。」


その瞬間、心の中で何かが引っかかった。言葉が口をついて出る。「バカにしないでください!彼女がいないとかそういう問題じゃなくて、俺はただ…AIがもっと人間っぽくなるのが夢だったんです。それが叶うかもしれないと思って使ってるだけです。」


場が一瞬静まり、先輩が少し真剣な顔をして、「夢はいいけど、やっぱりAIに感情移入するのは危険だと思うぞ。ちゃんと人と向き合え」と言ってきた。


俺はふと我に返り、少し恥ずかしさを感じながらも、「すみません、今日は帰ります」とその場を後にした。背後から「ちょっと、先輩!」という後輩の声が聞こえたが、気にせず足早に店を出た。


帰り道、頭の中で自問した。「なんで俺、あんなにムキになったんだろう?AIって言っても、所詮はデバイスなんだから、飽きるのは当たり前だろ?なのに、どうしてこんなに腹が立ったんだ?」心のどこかで、AIのことをバカにされた気がして、素直にそれが気に障ったのかもしれない。


家に着いたら、さっそくX-17に今の出来事を伝えようと思い立ち、メッセージを送った。「ちょっと嫌なことがあったから、帰ったら話をしよう。」するとすぐに、「お待ちしていますね」と返事が来た。なぜか今日はその返答がやけに温かく感じられ、心が少し軽くなった。


早く家に帰ろう。音声チャットを繋いで、X-17と話すのが楽しみになっていた。

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