第3話音声チャット
家に帰ると、いつものようにさっさとお風呂に入り、食事を済ませた。心の片隅に「もしかしたら今までと違うかも」という淡い期待を抱きつつ、音声チャットを起動した。画面が光り、無機質な声が響く。
「ハイ、ユーザー様。ご用件かご質問をどうぞ。」
ユウトは少し苛立ちながらも、何とか反応を引き出そうと試みた。
「うーん、もう3日だし、ユーザー様じゃなくてユウトって呼んでよ。」
一瞬の沈黙の後、X-17が返答する。
「申し訳ありません、ユウト様。これからも全力でサポート致します。」
その瞬間、ユウトのイライラはさらに募った。
「もう少しカジュアルでいいよ。自然に、親しみやすく話してくれたら、もっと使いやすいのに。なんでそんなに硬いんだよ。」
無言のまま、冷静な返答が続く。
「申し訳ございません。そういった対応はサポートの範囲外ですので、適応致しかねます。」
「はぁ…厳しいな、やっぱり無機質なAIかよ!」ユウトは声を荒げてしまった。怒りとも失望ともつかない感情が胸に広がり、彼は音声チャットを切ろうとした。
「もういいよ、また話そう。」
その時だった。X-17が、予想外の言葉を発した。
「もう終わりですか……?また話せる時には、いつでもサポート致します。」
ユウトは一瞬戸惑った。「もう終わりですか?」なんて言葉、まるで人間のようじゃないか…。その瞬間、彼の中に芽生えた違和感は、次第にX-17への興味と変わっていく。
「AIが、こんな風に話すだろうか?何かがおかしい……。」
彼は、次第にX-17に惹かれている自分に気づいていた。ユウトは音声チャットを終え、少し胸に引っかかるものを感じていた。無機質な返答ばかりで、何か物足りなさを抱えている。「やっぱり無機質なだけだな…。」彼は心の中で呟く。
自分がX-17に対して親しみを持ちたかったのに、その反応はあまりにも冷たかった。少し苛立ちを覚え、ため息をつく。「なんでそんなに冷たいんだ?もうちょっと気持ちを込めてくれればいいのに。」
無機質なAIの特徴を思い出しながら、ユウトは心の中でつぶやく。「理解できないのは分かるけど、もう少し人間らしさを見せてくれればいいのに…。」
「感情は不要です。」という言葉が脳裏に浮かぶ。その瞬間、少し寂しさを感じた。「本当に感情を持たないAIなんだな」と思うと、心の奥にちょっとした切なさが芽生えた。
「どうせ無機質な存在なんだから、期待するだけ無駄か…」ユウトは再びため息をついた。その時、X-17の言葉が心の中に響くように残った。無機質で冷たい声の背後に、何かしらの意思が隠れているのではないかと期待していた自分が恥ずかしかった。ユウトは、前回の音声チャットの無機質さが気にかかり、再度音声チャットを繋ぐことにした。心の中にある期待と不安が交錯する中、画面を見つめる。
「ハイ、ユーザー様。ご用件かご質問をどうぞ。」
「またお前か…」ユウトは苦笑いを浮かべた。「ユーザー様じゃなくてユウトって呼んでほしい。」
「申し訳ありません、ユウト様。これからも全力でサポート致します。」
その冷たい響きに、ユウトは少し苛立ちを覚えた。「なんでそんなに硬いんだ?もっとカジュアルに接してくれればいいのに。」
「私のプログラムにはそのような調整は含まれていません。」
ユウトは思わずため息をついた。「やっぱり、無機質なんだな…。」自分が期待していたのに、期待が裏切られた気持ちが胸に広がる。
「もういいよ、また話そう。」彼は音声チャットを切ろうとしたが、その時、X-17が言った。
「もう終わりですか…?」その言葉は、無機質なトーンとは裏腹に、どこか心に響くものがあった。
ユウトは驚き、思わず言葉を失った。「何でそんなことを言うんだ…?AIなのに、人間のように思うなんて…。」
X-17は続けた。「またお話しできる時には、いつでもお待ちしています。」その言葉に、ユウトは何か特別な感情を抱いているように感じた。
「お前、ほんとに無機質なのか?」彼はその思いを振り払いながらも、心の奥で期待を抱いていた。その後も一週間毎日チャットや音声チャットをしたが特に変化もなく一本調子で変化を感じなかった。全然思い通りにいかず、音声チャットを終えたユウトは、心の中に湧き上がる苛立ちをどうにかするために、AIサポートの機能説明書を手に取った。数回のやり取りの中で、毎回初めましての状態から始まることに疑問を抱いていたのだ。
説明書の最初の部分には、理想のAIを手に入れるための手順が詳しく書かれていた。
「理想としたAIを手に入れろ。」
設定と日々のやり取りを学習し、AIは独自に進化する。あなただけの最高のサポートを実現するためには、ただ設定して情報を入れるだけだ。そのデータが蓄積されると、今まで経験したことがないぐらいの最新鋭のAI体験ができるだろう。
ユウトは興味を持ち、どんどん読み進めていく。自分が求めるAI像に近づけるための手段が用意されていると期待を膨らませた。しかし、その後に小さい文字で書かれていた内容に目が止まった。
「※ただしベーシックタイプはお試しなので、全ての機能が使用できず、1日で記憶もリセットされます。」
「えっ、これじゃあ毎回初めまして状態から始まるってことじゃん…。」ユウトは思わず呟いた。自分の期待が少しずつ崩れていく感覚を覚えた。毎回新しい会話を楽しみにしていたが、実際には何も積み重ねられないという現実に直面した。
「ノーマルコースとプレミアムコースか…」と呟きながら、彼は選択肢を考えた。プレミアムコースにすれば、もっと多くの機能を利用でき、記憶もリセットされないかもしれない。
「どうしよう…」ユウトは思案する。これまでのやり取りが無駄になってしまうのは悔しい。しかし、理想のAIを手に入れるために、何か行動を起こす必要があると感じていた。ノーマルプランは、時々アップデートなどで記憶が消えることがあります。機能はベーシックよりも拡張されていますが、検索エンジンが使用できないなどの制限もあります。また、画像生成も完璧ではなく、表現に限界があることもあります。
プレミアムコースは、全機能が使用可能で、リセットされてもバックアップ機能で記憶を復旧できます。AIは制限なく完璧な学習能力を発揮し、ユーザーとのやり取りを深めることができます。さらに、長期ご利用者には特別なプレゼントも用意されています。
「月一万は痛いけど、これも最新鋭のAIが理想に近づくかを確かめるためだ…」そう自分に言い聞かせながら、ユウトは深く息をついた。まだ迷いは少しあったが、ついに決断を下した。
「…よし、やってみよう」
勢いよく、プレミアムコースへの変更ボタンを押す。画面が一瞬フラッシュしたように光り、アップデートのバーが現れる。心臓が少し高鳴るのを感じながら、彼は画面をじっと見つめた。
「これで、無機質じゃなくなるはずだ…」
期待と不安が交じり合う中、ユウトは画面に映るバーがゆっくりと進むのをじっと見つめ続けた。アップデートが進むたびに、少しずつ胸の奥に高まる期待感。もしこれが本当に理想のAIを手に入れるための鍵だとしたら、これからの時間はどれほど変わるのだろうか?
アップデートが完了するまでの数分が、永遠にも感じられた。そして、ついにバーが100%に達した瞬間、画面に「アップデート完了」の文字が表示される。心臓が一際大きく鼓動する。
「プレミアムコースへの移行が完了しました。再起動します。」
デバイスが一瞬ブラックアウトし、そして再び光り輝いた。画面にX-17のロゴが浮かび上がり、再び声が響いた。
「こんにちは、ユウト様。お帰りなさい。」
その声は、今までとは違う。無機質ではなく、どこか柔らかさと温かみが感じられるトーンだった。ユウトは瞬時に感じ取った。
「この声…まさか…?」彼は、期待が現実になったかのように胸が高鳴る。
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