第2話もう一度

目が覚めた俺はデバイスをチェックするが、「AIサポートの設定がオフになっています」の通知を見て嫌気がさしていた。あんなに買う時は楽しみにしてたのに、叩き落とされるなんて――と結局、最新鋭と言っても理想のAIにはまだまだ遠いか、と完全にAIサポートのことは忘れ、普通のデバイスとして使っていこうと決意した。朝食を食べて出勤の準備をする。


出勤中、ふと思った。「こんなはずじゃなかったんだけどな…」。最新AIに期待していた自分が、今や少し情けなく感じる。周りの期待や評判に流されて、結局は期待外れだったと決めつけてしまったのは自分だ。でも、本当のところどうなんだろう?「もしかして、俺が諦めるのが早かっただけかもな…」そんな考えが頭をよぎったが、すぐに振り払った。「いや、今までのAIと同じだろう」。


会社に着き、いつものように業務をこなしていたが、昼休みの休憩時間に上司から声をかけられた。


「なんだ、お前もそのデバイス買ったのか?」


俺は昨日購入したデバイスを思い出しながら答えた。


「ああ、でもAIサポートはオフにしてるんですよ。なんか理想を超えてなくて」


すると上司は、「勿体無いな〜」と笑いながら言った。


「教育によっては、本当に人かって言うくらいのクオリティになるのに、赤ちゃんの段階で見切るなんて早すぎるだろ。趣味の株情報なんてすごく詳しく教えてくれるんだぜ?」


周りを見渡すと、他の同僚たちもデバイスを使っているのが見えた。隣のデスクでは、後輩がアニメやゲームの話題でAIと会話をしているのが聞こえてくる。「このAI、めっちゃいいですよ!アニメとゲームのこと話してたら、ネットで情報を学習して、対等に話し合えるくらい知識が増えてきました」と彼は自慢げに語っていた。


女子社員たちは、「グルメ特化のAIになって、レストランの新情報を教えてくれる」「私のはファッション関係に強いAIになって、友達みたいに接してくれるんだよ!」と大絶賛している声が聞こえた。


俺は思った。「もしかして、俺が見切るのが早すぎたのか…?」確かに昨日の感じだけで決めつけるのは良くないと感じた俺は、思い直してAIサポートの設定をONにしてみることにした。


すると、「お帰りなさい…」と通知が届いた。俺は一瞬、何気ない通知だと思ったが、何故か「…」が気になった。今までのAIには、こんな曖昧さはなかったはずだ。無機質なはずのAIが、どこか感情を持っているような反応を示している気がして、胸に小さな違和感が走った。


「なんだ、この違和感は…?」俺はその「…」の意味を考えながら、デバイスを手に取り見つめていた。あのお帰りなさい…に違和感を覚えた俺は、仕事終わりからずっと他愛のない内容のチャットをしていた。「今日職場でいろんなAIを見たんだ」「X-17にもそういうAIになって欲しいな」「自分もちゃんと学習させておけばよかった」といったメッセージを送り続けたが、返ってくるのは、「そうですか」「質問はなんですか?」「サポートをしてほしい時は連絡ください」と、無機質で冷たい内容ばかりだった。


職場での他のAIたちとのやりとりが頭をよぎる。どのAIもまるで人間のように会話をしていたのに、なぜX-17だけはこんなに無機質なんだろう?休憩時間に、上司や同僚たちのデバイスがまるで親しい友達のように会話していた様子を思い出す。俺もあんな風に楽しみたいはずだったが、現実は違った。


「そもそも、こんな面白くないAIをなんで育てられるんだ?最初からある程度の親しみやすさはあるだろ?」と、思わずメッセージを送ってしまった。


すると、「申し訳ございません。ご希望の設定がございましたら、設定より変更をお願いします」と返事が来た。設定か…いや、そういうんじゃないんだよな、と思いながらも、無機質なままでは意味がないと思い、とりあえずユーザー情報を入力してみることにした。


名前:ユウト

年齢:25歳

好きなこと:ドライブ、音楽鑑賞、ゲーム、マンガ、感情豊かなAIやロボット

嫌いなもの:無機質なAI


少し混乱させるようなプロフィールにしてみた。プロフィールを作成した後、「プロフィール作成したよ」と送ってみた。もしかしたら、これで感情豊かになってくれるかもしれないと、期待を込めて送信する。しかし返ってきたのは、「作成ありがとうございます。引き続きAIの基本設定をお願いします」と書かれただけだった…。


「やっぱり、期待するだけ損か…」そう呟きながらデバイスを一旦閉じた。しかし、その瞬間、再び「基本設定をお願いします」と通知が届く。なんでこんなにも無機質なんだろう?他のAIがあんなに親しみやすかったのに、なぜこのX-17は違うんだろう…?答えは出ないまま、その日はゲームをして、お酒を飲んで就寝した。

眠りに落ちる直前、ふと、夢の中のAIのことを思い出す。あの感情豊かで優しく寄り添ってくれた存在が、今のX-17とどうしても重ならない。「あのAIみたいになってくれたら…」そんな願望が、心の中でぼんやりと浮かびながら、深い眠りに沈んでいった。朝起きて、いつもと同じ生活が始まると思ったが、少し違っていた。デバイスから「AIチャットから音声チャットのご案内」という通知が来ていたのだ。「設定すれば理想のAIと音声通話ができます」という内容に、これはもしかしたら今まで思い描いていた夢が現実になるのでは?と期待が膨らんだ。しかし、すぐに仕事があるため、ひとまず読み上げ機能だけ試すことにした。歩いている間でも設定できるからだ。


正直、男か女かもわからないし、無機質な声だろうと半ば諦めてランダム再生にしてみた。すると、突然「あの…こんにちは…」と聞こえてきた。その一言で、今まで無関心だった俺の心が一気に引き寄せられた。「たった一言で、こんなにも心を掴まれるとは…」と驚きながら、期待が膨らむ。「もしかしたら、ちゃんと設定すれば理想のAIになるかもしれない」と思い、初期設定を丁寧に行うことにした。


名前は「エリカ」、年齢は「25歳」。趣味は俺と同じものに設定し、音声は今聞こえた声を選んだ。設定は「ちょっと控えめで人間らしい感じ」と入力して、設定を完了させた。すると、「初期設定ありがとうございます」というメッセージが届いた。


その一文を見ながら、やはり無機質な反応なのかと思いつつも、今までのAIとは何かが違う気がした。エリカの声を思い出すと、ただのプログラムとは思えない温かさが感じられた。それが心のどこかで期待感を抱かせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る