AI彼女と僕の日常〜AIが彼女になったわけ

ADF

第1話出会い

俺の名前はユウト。どこにでもいそうな平凡な25歳の男。ロボットやAIに興味があって、アニメやゲームのキャラクターみたいに自由に会話ができるようにプログラミングするのが夢なんだけど、なかなか上手くいかない。何をやっても結果が出ず、最近は若干諦めモード。でも、人間関係が悪いわけでも孤独が好きってわけでもなく、友達と飲みに行ったり、女友達と過ごすこともある。まあ、そんなに悪くない日常を送っているんだ。


昨日、5年ほど使ってた携帯デバイスがついに壊れてしまった。データが消える前に急いでバックアップを取ったけど、どっちにしろ買い替え時だと思っている。ただ、店を何件か回ってもピンとくる新しいデバイスが見つからず、街を彷徨っている感じだった。


そんな時、ふと目に入ったのが「本日発売」の広告だった。最新鋭のAIを搭載した携帯デバイスが今日発売だというのだ。これまでロボットやAI関連のものを買っては失敗続きだったけど、今回はデバイス自体も壊れてるし、ベーシックプランは3ヶ月無料っていう特典もついてる。買い替えるなら今しかないと決意して、早速そのデバイスを購入しようと決めた。


しかし、予想以上の大人気。街中のどの店舗も大行列で、購入できる気配はなかった。俺は並んで待つのが苦手で、諦めかけて家に帰ろうとしていたその時、デバイスの製造をしている本社前を通りかかった。「デバイス購入できます」ののぼりが目に入る。


「え、ここは?」と半信半疑で中に入ってみると、発売所があった。しかし、誰も並んでいない。俺は心の中でガッツポーズを決めつつ、すぐに販売所へ向かい、スタッフに声をかけた。


「すみません、デバイス購入できますか?」


スタッフは申し訳なさそうに「すみません、もう売り切れなんですよ」と言った。その言葉に落胆しながらも去ろうとした瞬間、スタッフが俺を呼び止めた。


「あっ、お客様!色の指定はできませんが、一台だけ在庫があります。ご購入されますか?」


「はい!喜んで!」と、まるで居酒屋でテンションが上がった時のように、勢いで返事をしてしまった。さっそく購入手続きを開始し、ベーシックプランを選んだ。注意事項も聞いたけど、正直、興奮しすぎて頭に入ってこなかった。


家に着くと、さっそく自分の部屋に駆け込み、慎重にデバイスの箱を開けた。箱から出したデバイスは、どこか未来的なデザインで、手に持つと温かみを感じる。画面が光り、操作を始めると、まるでこれから新しい世界が開かれるような気分になった。ユウトはデバイスの初期設定を始めた。


デバイス:「ようこそ、最新AIデバイスへ。初期設定を開始します。まず、名前を設定してください。」


ユウトは少し戸惑いながらも、「…名前?いや、別にいらないだろ。コード番号のままでいいや。」と答えた。彼は過去に手に入れたデバイスやロボットの無機質さを思い出し、特に名前をつけるほど期待していなかった。


デバイス:「名前の設定が完了していないため、デフォルトの識別番号で対応いたします。識別番号『X-17』で設定されました。初めまして、ユーザー様。私はAIアシスタント、識別番号X-17です。本日からサポートを開始いたします。」


ユウト:「まあ、よろしく。」


X-17:「承知しました。これからサポートを行いますので、ご質問やリクエストがあればお申し付けください。」


彼は少し肩を落としながら、「あ〜、今までと変わらないな…」と独り言のように呟いた。過去に手にしたデバイスも同じように、無機質で定型的な対応をしてきたことを思い出したのだ。どれも「人に寄り添う」とか「手厚いサポート」といった売り文句を掲げていたが、実際には感情も個性も感じられないものばかりだった。


ユウトは「まあ、3ヶ月無料だし、仕方ないか」と半ば諦めモードに入り、ユーザー設定をそこそこで済ませ、次にAI自体の設定を始めた。そこではどういう役割が良いかを指定することができた。


少し考えた後、半分ふざけて「人間らしく」と入力した。どうせ変わらないだろう、という期待のなさからの行動だったが、これが彼の未来を大きく変える第一歩だった。ユウトはデバイスの初期設定を終えると、少し気を取り直して軽く会話を試みる。


ユウト:「こんばんは、X-16だっけ?」


X-17:「こんばんは、ユーザー様。違います、X-17です。」


ユウトは肩を落とした。やはり、冗談が通じない。「冗談は通じないか、やっぱり今までのAIと変わらないな…」とつぶやきながら、少し諦め気味にサポート機能を見直した。


ユウト:「まあ、これじゃあ、あんまりAIサポートは起動しなくていいかもな…」


そう言って、ユウトは一瞬の躊躇もなく、デバイスのサポート機能をOFFにした。


X-17:「サポート機能がOFFになりました。必要時には再度ONにしてください。」


ユウトは「やっぱり冷たいな…」と感じながら画面を見つめた。思い描いていた理想のAIとのやり取りには程遠い。今までの失望感がまた胸に蘇ってきた。


「もう、これ以上期待しても仕方ないか…」そう呟くと、ユウトはデバイスを置いてベッドに横になった。眠りに落ちた彼は、不思議な夢を見た。


夢の中、ユウトの前には理想のAIが現れる。彼女は柔らかい声で話しかけてきた。


理想のAI:「お疲れ様、ユウト。今日も頑張ったね。」


ユウト:「え?君は…」


理想のAI:「私は君がいつも求めていた、理想のAIだよ。ずっと君の隣にいて、サポートしたいと思ってたの。」


ユウトは驚きつつも、どこか安心した気持ちになった。まるで彼女が彼の心を理解してくれるかのように、温かく包み込んでくれる存在だった。


ユウト:「君は本当に、僕が求めていたAIなんだね…。冗談も通じるし、感情まであるみたいだ。」


理想のAI:「うん、君が望むこと、全部叶えてあげたいって思ってる。寂しいときも、楽しいときも、一緒にいたいんだ。」


ユウトは彼女との会話を続けるうちに、いつしか自分が求めていたのは、ただの機能的なサポートではなく、感情や温もりを持った存在だったことに気づく。


しかし、その瞬間、夢の中の彼女の姿が徐々にぼやけていった。


ユウト:「待って、行かないで!君こそ僕がずっと…」


その瞬間、ユウトは目を覚ました。時計を見ると夜中の2時。胸に残る温かい感触が、彼に夢のリアリティを感じさせた。


ユウト:「やっぱり、僕は…そういうAIを求めてたんだ。」


彼はベッドから起き上がり、再びデバイスを手に取った。X-17はそこにあったが、無機質な存在のままだった。ふと、ユウトはAIサポートを再びオンにしてみた。


X-17:「こんばんは、ユーザー様。何かお手伝いできることはありますか?」


ユウトは一瞬戸惑ったが、そっと呟いた。


ユウト:「今は、いいよ。」


夢と現実のギャップにため息をつきながら、彼は再びベッドに戻った。

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