2.花嫁修業
「よく来たなアイリーン。 ……頭を打ったと聞いたが、体の方はもう平気なのか?」
「はい、国王陛下。 ご心配をおかけして申し訳ございませんでした」
(まさか『前世を思い出しました』なんて言えないわね……)
玉座の間には、私のお父様とお母様、弟のアイク、そして国王陛下に王妃様、さらにはシュミット王子の姿があった。
実を言うと、シュミット王子とは初対面ではなかった。私のお母様が国王陛下の妹ということもあって、昔は家族ぐるみで接点があったのだ。でも、シュミット王子に会うのは実に十年ぶり。その頃から、親同士で婚約の口約束がされていたけれど、今日はいよいよ正式に婚約者として認められるための場だった。
(シュミット王子……)
“
「半年後のアイリーンが成人を迎える日を結婚日とし、それまでの半年間アイリーンは正式な婚約者として城で花嫁修行に励むこととなる」
「はい! 必ずや立派な姫となり、シュミット様をお支えいたします!」
私は胸を張って宣言した。国王陛下は私に期待を寄せる表情で頷く。
「シュミットは寡黙で外交的ではないから、アイリーンのような社交的な子が側にいてくれると安心ね」
王妃様も微笑みながら優しい言葉をかけてくださった。私は気持ちが高ぶり、彼女の期待に応える決意を固め、シュミット王子の側に一歩進んだ。
「アイリーン=ド=ヴァレンティナ。 本日より婚約者としてシュミット様を支えられるよう、日々精進いたします」
ドレスの裾を優雅に持ち上げ、完璧な礼をしてから、シュミット王子に向けて渾身のウルトラキュートな笑顔を放った。
(こんなパーフェクトな笑顔を見せられて、堕ちない男の子なんていないはず!)
……しかし、シュミット王子は無表情のまま、軽く「あぁ」とだけ言い放った。彼の顔にはまったく感情が見えない。
(そ、それだけ……?)
期待していた反応は、少なくとも笑顔か、何かしらの言葉が返ってくるものだった。だけど、目の前の彼はまるで氷の彫刻のように冷たく、こちらをただじっと見つめるだけ。
(いやいや、ちょっと待って。 私は今、オルタシア王国随一のキュートな笑顔を披露したはずよ? なんでこんなに反応が薄いの!?)
私は心の中で慌てふためきながら、もう一度シュミット王子を見上げた。しかし彼は依然として無表情、何も感じていないかのように静かに佇んでいる。
(なんなのこの人! まる氷の彫像ね!?)
思わずそう錯覚してしまうほどの冷たさだ。私は焦って再び笑顔を作り直し、今度こそ決定的な可愛さを見せつけようと試みた。
「シュ、シュミット様……これから、よろしくお願い致しますね!」
渾身のウインクを添えた言葉に、今度こそ彼の心に響くだろうと信じていた。だが――
「あぁ」
再び、淡々とした返事が返ってきた。
(えぇぇぇぇっ!?)
心の中で絶叫する私。まさかの二連続「あぁ」攻撃をくらい、私は完全に打ちのめされた。周りにいる大人たちも微妙な空気を察したのか、皆が気まずそうに視線をそらしている。アイクにいたっては、口を押えて笑いを抑えていた。
「うぉっほん! ……アイリーンには、一週間後に開かれる婚約発表も兼ねた社交界への参加が、婚約者としての最初の仕事になろう。 短い期間だが、準備の方を頼むぞ」
「は、はい! お任せください!」
ここで引き下がるわけにはいかないわ。私はアイリーン=ド=ヴァレンティナ―――前世とは違う、すべての男性を虜にしてしまう超絶美少女!!
(絶対、夢中にさせてみせるわ! 待ってなさいよ、
私は心の中で拳を握りしめ、闘志を燃やした。
次の更新予定
前世でイケメン女子だった公爵令嬢は、氷刃の王子に「可愛い」と言われたい。 高島 @takasima31
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