第19話 みんな、大好きだよ!

「ブシュルルル……ひっ、比奈子ちゃん……」


 盛大に鼻血をしたたらせながら、白神博士がよろけて起き上がってきた。違う意味で絵になるその姿に、美人はなにがどうなっても美人なんだなって心から思う。


「早速着替えて、あたしたちと出発よ」

「えっ、出発? どこへ?」


 振り返ったわたしに、ジャクソン伍長は人差し指を力強く向ける。


「バスジャックさ!」

「バスジャック!?」


 昭和の特撮ヒーロー物みたいな悪事を、こいつらは今時やらかすつもりなのか……先輩社員たちの計画に、いろいろと先行きが不安になる。


「そう。そして、そのバスを、最終的には人質ごと建設中の回転寿司チェーン店に突っ込んで爆発させるのよ」

「…………いや、微妙に新しいけど、なにかが違ってるし! 惜しいから! もうちょっとひねれば、歴史的凶悪犯罪になりそうだから!」

「チッチッチ、ちゃんと意味があるんだぜ、シスター」


 思わずツッコミを入れてしまったわたしに、今度は人差し指を左右に振り、もう片方の手で股間を握るジャクソン伍長が割って入る。

 すっかり見慣れた汚ならしい光景の横で、白神博士が眼鏡の位置を片手中指で直しながら説明を続けた。


「これはね、競合ライバル寿司店からの正式なオファーなの」

「つまりそれって……出店の妨害工作をして利益を得ようと?」

「ええ、そうよ。建設中の寿司チェーン店は、さらにイメージダウンにも繋がるから客足もとお退いてお先がまっくら寿司・・・・・・。そして、その離れていったお客さんたちが〝あっちで寿司ろうぜ・・・・・!〟と、依頼主のお店へ食べに向かう。あたしたちも謝礼をガッポリと受け取って、まさに両者がウィンウィンな計画なのよ」

「具体的な店名が浮かんでしまう説明の仕方はマジでやめて!」


 いろんな意味で危険な会話をする白神博士。

 わたしは、全力で注意をした。


「とにかく、今からあたしたちはスシ○ーの依頼で、く○寿司の新店舗を破壊しに──」

「伏せ字で隠してもダメだから! ほぼ直球だから! それアウトって言うから!」


 いろんな意味で危険極まりない会話をする白神博士。

 とうとうわたしは、全力のグーパンチで襲いかかった。

 彼女のあごを打抜き、そこから馬乗りになって右のエルボーで数発顔面をぶん殴った頃──ここまでは約二秒ほどの時間経過だ──全身黒タイツの変態野郎どもがわたしを止めに入り、白神博士は九死に一生を得た。


 こうしてわたしは、一時的にパート戦闘員になって、変態たちと一緒にバスジャックへと向かった。


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