第18話 新人戦闘員誕生

 バスローブの腰紐を結び直しながら隣に座った白神博士は、わたしの太股をガン見したまま三分以上黙りこんでいた。

 流石さすがのわたしもドン引きして、つっこむのを忘れて「やめてください」って小声で普通に注意しちゃったよ。


「ヘイヘイ、白神博士! お楽しみのところを悪いけどYO! 早く彼女に説明して〝計画〟に入ろうぜぇぇぇ……フォーッ!」


 そう言い終える直前、股間を握ったまま腰を激しくグラインドさせたジャクソン伍長は、虚空を指差して意味もなくえた。


「わかってるわよDD。ねえ比乃子ちゃん、あなたは改造人間だけれど、普通の改造人間とは違うの」


 普通の改造人間ってなんだよ。心の中でツッコミを入れたけど、それを口に出さないで無言で聞き続ける。


「あそこの変態ブラザー……DDも改造人間なんだけれどね、今は仮の姿で、その正体は凶暴な〝黒豹型怪人〟なの。つまり比乃子ちゃんも、今の〝貧乳型女子高生(笑)〟は仮の姿で、その正体は怪人なのよ」

「なんなのよ〝貧乳型〟って?!(笑)も気になって仕方がないしッ!」

「でも、比乃子ちゃんの改造手術は成功したけれど、変身ができないという事がわかった」


 怒れるわたしを無視したまま、白神博士は真剣な眼差しでそう告げた。


「えーっと……つまり、わたしの身体は改造され損? 失敗作ってこと?」

「ううん、違うわ。むしろ〝究極の改造人間〟なのよ。あたしの父の最高傑作──それが比乃子ちゃん、あなたなの!」


 白神博士は真面目な表情を向けたまま、もう一度腰紐をほどこうとしたので手首をガッツリ押さえて阻止したわたしは、なにが究極なのかをたずねた。


「じゃあ、わたしってなにが凄いんですか?」

「……不老不死」

「え?」

「比乃子ちゃんの肉体は、貧乳だけれど不老不死に生まれ変わったのよ」

「貧乳を強調するな! つか、貧乳じゃねえし!……おい、そこのおまえ! 笑ったろ今? ここまで聞こえてんぞッ!」


 ジャクソン伍長の右側に立つ、ちょっとメタボ体型な全身黒タイツ姿のクソ野郎に掴みかかったわたしは、そのまま足払いで押し倒し、馬乗りからの顔面グーパンチを連打する。

 そんな修羅場をよそに、白神博士は淡々とした口調で話を続けた。


「不老不死だからこそ、変身ができない。爆発的な力で、本人の意思とは関係なく自然に元に戻ってしまうから」

「自然に……オラッ! 戻る? もっと……セイヤッ! わかりやすく……お願い……しま……スッ!」


 黒い目出し帽の二重顎にとどめのグーパンチを振り下ろしてから立ち上がる。

 白神博士に近づくわたしの背後では、他の全身黒タイツたちが寝転がる同胞を助けようと、救命活動に取り掛かった。


「簡単にわかりやすく説明するなら、数字がいいかしら……例えば、比乃子ちゃんの生命力を現す数が〝百〟だとして、この数が加齢と共に減少していって、来年の今頃には〝九十九〟、再来年には〝九十八〟に減っていくのよ。なにもしなくても、生きているだけで数字が減りつづけていくの。ここまで意味がわかる?」

「んー、つまり、〝ゼロ〟なら死ぬってこと?」

「結論を言えばそう。でね、改造人間として変身を……正体を現した時、その数字が著しく上昇して〝一万〟になるはずなの。けれども、不老不死の爆発的な力も同時に働いてしまい、元の姿に戻ろうとして〝百〟になる。その数字を維持して動かない──ずっとそこにとどまってしまうのよ」


 話の途中でやっぱりバスローブの腰紐に触れる白神博士だったけれど、わたしがめんどくさいから放置しようとしているのを素早く察知して、悲しそうな表情を見せてそれをやめた。


「えーっと……要するに?」

「未来永劫、比乃子ちゃんは十六歳のままで生きつづける……貧乳として。豊胸手術したってダメ。ソッコーで元に戻るから、うん」

「そっ……そんな……」


 嫌だ。

 なんかそんな表現の仕方が、メッチヤ嫌だ。

 ショックで膝から崩れ落ちてしまい、四つん這いの姿勢になるわたし。


「元気を出して。ポジティブに考えて、ね?」


 隣にしゃがみ込んだ白神博士が、わたしのお尻を撫でながら笑顔でそう励ます。そのまま耳に息を吹きかけてきて、プリーツスカートの中に手を入れてきた白神博士に頭突きをかましたわたしは、とりあえず運命を受け入れることにして立ち上がった。


「…………で、一体わたしは、なにをどうすればいいんですか? ちゃんと大幹部以上のポストは用意されているんでしょうね?」


 毒を喰らわば皿まで──。


 こうなったら、やってやる。

 悪の道だろうと、やるからにはてっぺんまで昇りつめてやるんだから!


「OH……大幹部スタートは下の者に示しがつかないから、最初の二~三ヶ月は戦闘員からお願いするぜ」


 近寄ってきたジャクソン伍長から、ストラップ付きのパスケースを手渡された。



秘密結社スカルコブラー

パート戦闘員 比乃子ひのこ(研修中)



 いつの間に作ったのか、パスケースには、わたしの顔写真と名前が記載されたカードが封入されていた。って、苗字のふり仮名が間違ってるぅぅぅぅぅ!


「戦闘員て、全員パートなの?」

「イェース」


 現代日本が抱える問題点が、悪の秘密結社の雇用形態にも垣間見えた瞬間だった。


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