セカンド・ファンタジー【外伝】
崔 梨遙(再)
1話完結:2000字
やがて、正規軍に入りそれなりの手柄を立てるようになるケイジの話。
ケイジと言えば2刀流。だが、ケイジは昔は剣1本で戦っていた。それは、ケイジがまだ若さの上に幼さを残していた頃のことだった。
森を切り開いた道を馬車が走る。その馬車が急停車した。道の真ん中に、剣を抜いた若い男が立っていたからだ。
「お前、何者だ?」
「義賊のケイジだ」
「俺達を通せ、邪魔だ」
「積荷は置いていってもらおう」
「そんなことができると思っているのか?」
馬車から5人の男達が降りて来た。用心棒だ。自信満々の用心棒だったが、数分とかからず全員が大地に大の字で寝転がることになった。全員、ケイジが倒したのだ。
「なんだ、たいしたものは積んでないなぁ。あ、現金がある。これだけ貰っておくか。お嬢さん、大丈夫か?」
お嬢さんと呼ばれたのはイライザ。ケイジと同じ年頃か? 少しだけケイジよりも年少か? 美しく、スタイルも良い。
「私は大丈夫。名前はイライザ。あなた、女を陵辱しないのね」
「俺はケイジ。そんなのはクズのやることだ」
「あなたは盗賊?」
「義賊と言ってくれ」
「賊って、あなた1人じゃないの」
「これから人数を増やしていくんだよ。悪い金持ちから金品を奪って、貧しい家にばらまくんだ」
「まあ、私の父が悪い金持ちだという自覚はあるけど」
「ものわかりがいいのはいいことだ」
「護衛は全員殺さなかったのね?」
「峰打ちですんだからな、無益な殺生はしない。よし、今日はこれだけ貰っていくことにしよう」
ケイジは戦利品をリュックに背負った。
「じゃあな」
「待って」
「なんだ?」
「あなた、怪我してるでしょう?」
「よく気付いたな? でも、まあ、これくらいならなんとかなる」
「ダメよ、回復魔法を施すわ」
「じゃあ、頼む」
「……」
「俺が怪我してるって、よくわかったな?」
「私の能力なの。自分のことも他人のことも、身体のことはわかるの」
「ふーん、なあ、お嬢ちゃんはあまり家から出ない方がいいぞ」
「どうして?」
「今回みたいに、いつか賊にさらわれる。本当に陵辱されるぞ」
「わかったわ、あ、治ったみたい」
「本当だ、この御礼はいつかする」
それから、護衛も付けずにイライザが森に遊びに来るようになった。ケイジは毎回心配して、毎回“もう、来るな!”と言うのだが、イライザは気にしない。
「これ、あげる」
「なんだ? この剣は?」
「剣士の家の家宝だった宝剣よ」
「こんなのもらってもいいのかよ?」
「きっと、使ってもらった方が剣も喜ぶわよ」
「そうか、では、ありがたくもらう。でもな、この森も安全じゃないから、もう来るんじゃないぞ」
「わかってる! わかってる!」
それからしばらく、イライザはピタッと来なくなった。最初は安心した。“ようやく、危ない森の散策をやめたのか”と思った。ケイジにしてみれば、イライザと過ごす時間は楽しいが、イライザが賊に襲われるのではないかと心配していたのだ。しかし、2週間、3週間、そして1ヶ月を過ぎると“おかしい!”と思うようになった。
ケイジは賞金首、堂々と街には行けない。マントを羽織り、フードで顔を隠してBARに入った。
「しかし、イライザを手に入れるとは賊も運がいいぜ」
「本当だぜ、あんないい女を陵辱できるんだからな」
「おい! それはいつのことだ?」
「もう1ヶ月以上前じゃないかな」
「賊の居場所は?」
「山の麓の洞窟だ」
ケイジは馬を奪って走った。山の麓までかなり走り、洞窟の入口で馬から降りて、いつもの左腰の剣を抜いた。一気に突入する。
酒盛りをしていた賊、20~30人いるだろうか? ケイジは賊達に次々と致命傷を与えていった。賊と言っても、多くは剣術を習っていない素人、雑魚が多い。
1番奥に辿り着いた時、1人の男が立ち塞がった。賊のリーダーだろう。リーダーの後ろに牢屋があって、イライザの姿が見え隠れしている。
「イライザ、もう少しだけ待っていろよ」
「お前、俺に勝てると思っているのか?」
「勝つ!」
剣と剣のぶつかり合い。リーダーは思ったよりも強かった。浅い傷がケイジの身体に増えていく。
「畜生!」
ケイジは、右差しにしていた宝刀を抜いた。
「なんだ? なんで今頃2刀流なんだ?」
「剣1本より、2本の方が強いに決まってるじゃねえか!」
ケイジはリーダーの懐に跳び込んだ。この時、ケイジは死を怖れていなかった。リーダーは死を怖れた。その差が出た。ケイジは、見事、リーダーを倒したのだ。
すぐにイライザを出して、洞窟から出た。
「遅くなって、すまなかった」
「本当に、遅かった」
「すまん」
「私、言ったでしょう? 私は自分の身体のことがわかるって」
「うん、言ってた」
「私は奴等の子を授かってしまった。もう生きていられない」
「あ!」
っという間にイライザは井戸に身を投げた。
ケイジは“女性に縁が無い”と思われがちだが、こういう悲しい思い出があった。だが、ケイジはこの思い出をまだ誰にも話していない。
セカンド・ファンタジー【外伝】 崔 梨遙(再) @sairiyousai
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