4話 路地裏

おれはその背中を追う。脇目も振らずに走った結果、あの酒場から出てきた男にぶつかってしまった。よく見てみると、その男はあの酔って大声を出していたやつだった。

「なんらお前?俺にぶつかるとはいい度胸やな〜。さらに若そうだし!よーし、お前俺と飲み行こうぜ!」

そいつに肩を組まれ、ベロベロによっているそいつからは酒臭い匂いがする、しかも舌が全然回ってないからほぼ聞き取れない。そんなことしている場合ではないんだ、と離れようとすると。

「おいチェン、だるがらみしてんじゃねぇ。すいません、ほんと」

あの男の隣で飲んでた人だ。結構体格が小さい。この酔ってる人は大きいが、この人より10センチほど小さそうだ。とは言っても俺と同じぐらいだが。

正気に戻ったおれは彼女が連れて行かれた方に目を向け走り出す。

「あ、お〜い飲まないのかー!」

「チェン、あの人誰か追いかけてそうだったぞ。必死に走ってるしなんかあったんじゃないか?」

「んーー、よし!あいつ追いかけて捕まえてー、飲みに連れてくぞ!」

「それしか言えねぇのかよ…ったく」


彼女を連れた男は路地裏に入った。彼女を連れてる男はジグザグに路地裏を走るため見失いそうになるが、全力で追いかける。身軽な状態、なによりこの若い体はすごく動きやすくてぎりぎりでくらいつける。そう走り続けて少し広い路地裏の空き地のような場所にでて、そこで男の動きが止まる。その姿におれは見覚えがあった。

「やっぱり追いかけてきたか、ガキ」

その男は彼女がぶつかったあのガラの悪いやつだった。男は彼女の手をつかんでいて逃げれないようにしている。

「うまくこいつと離れたいいタイミングだったんだが…バレちまったらしょうがねぇ」

「な、なんで彼女をさらうんだ」

まさかあの時ぶつかった腹いせなのか?俺は理由を探してみてるがそのぐらいしか出ない。

「それは言えねぇな」

「か、彼女を離せ…」

こんな治安の悪い状況にあったことのない俺の声と足は震えているのが自分でもわかる。

「あ…あ」

男に手を掴まれている彼女の口が少し動く。なんで言ってる?あ ぶ な

その瞬間背中に衝撃が走る。

「背中ガラ空きだぜ〜」

その勢いのまま前に倒れたおれは後ろを見ると、そこにはガラの悪い男の隣いたやつがいた。インパクトが強くて覚えていたみたいだ。そんなこと思ってる場合ではないと、頭が冷静になる。

立ち上がったおれはそいつと向き合う。

「やるきか?怪我する前にやめときなよ〜」

そういうやつは余裕を醸し出している。何も考えず殴りにかかるおれ。

「うぶ!」

殴られ蹴られ、それでもおれはつかみかかる。

「しつこいな、なんでそんな自殺行為すんのよ」

満身創痍のおれにやつは聞いてくる。

「助けてもらったんだ…こんな、誰かもわかんない俺を。それ以上の理由なんて…ない」

「あ…」

「なに、恩返し的な?こんなボロボロで?」

やつは俺を嘲り笑う。おれは殴られ続けうつ伏せに倒れた。やつらが彼女を連れて遠ざかっていく。

このままでいいのか。助けてくれた人を助けれない、おれは最低だ。自分の無力さに打ちひしがれる。

その時彼女に助けられた時のことを思い出す。空腹で

何も知らないところでひとり孤独に死にかけていたおれに、救いの手を差し出してくれた彼女はほんとに神様に見えたこと。家まで連れて行ってくれて、ご飯にお風呂まで。こんな貰いすぎなほどの恩を返せないのか、おれは。

顔をあげた俺の目と、連れ去られていく彼女の目が合う。彼女の目は顔は、たすけて、そう言っている。

俺は届くはずのない男どもの足に手を伸ばす。その瞬間俺の手から、何かが伸びた。それが男の足に絡みついた。

「なんだこれ…ツタ、いや茎?、うぶ!」

全力でそれを引っ張ると、足をとられた男は何もできず地面に顔から叩きつけられた。男は顔を抑え悶え叫んでいる。

「な、なんだこれ。まさか能力、おまえエスト学園のやつか!?」

何を言ってるかわからないが、男がこっちに殴りにかかる。おれは右手からもそれを伸ばしてやつの顔めがけて振る。

「が!」

奇跡的に目に当たった?やつは目を抑えながらくるが、それくらいなら避けれる。おれは彼女の元へ走り、手を取って逃げる。


「ぐぁ、いってぇ、目ん玉ねらいやがったな。逃げられたらやべぇ、おいかけ、ぐぁ!」

「させないぞ」

「だ、誰だおまえ。畜生!がは!」

「何をしてんたんだお前は」

「なにって、女を攫ってんだよ」

「何のために?」

「それは言えな…ごふ…」

「聞かなきゃよかったわ」

「おおーすごいね、さすがベラ!1発で気絶しちやってるじゃん〜おいおい起きてるか〜。ん?」

「なんだ今の叫び声」

「おれの飲み友の声だ!向こうからだ、行ってくる!」

「お、おい!その酒飲ますなよ!。てか、飲み友って。まだ飲んでないだろ」


「あ、ありがとう。助けてくれて」

「と…とりあえず家まで帰らないと」

満身創痍もいいところの俺の体はギリギリのところでふんばって、彼女に肩を借りる形で歩く。

「こんな…ほんとごめんね…」

「いや…むしろ1人にした俺の責任…だから」

もうすぐ大通りにでられそうだ。希望が見えたその時

、後ろからきたやつに地面に転がされた。そいつはさっき地面に顔面からいったやつだった。さっき殴られ蹴られた場所が痛み俺は叫んだ。俺はやつに問う。

「しつこいぞ…そんなに彼女が欲しいのか」

「ちげぇよ、このこと知ったお前らを生かしてたら、おれは殺される…、だから口封じだ」

やつは拳を振り上げる。もう体力のない俺は守る体制もとれない。

「ぐぁ!」

仰向けで殴られると思ったおれの目には、その男を思いっきり蹴った人が見えた。この酒臭い匂いにおれは覚えがある。

「よぉ〜飲み友!来ちゃったぜ!」

俺の目の前にしゃがみ込んだその人は、あの時酒場から出てきて絡んできた人だ。

体を起こし蹴られた男の方を見ると6〜7メートルぐらい吹っ飛ばされてる。これほんとに蹴りとばしたのか

「お…おまえ、誰かしらんが…邪魔すんな」

酒を持ったその人は男の元に歩いて行く。

「俺の飲み友、こんなにしたのお前?」

そう言ったあの人の声はさっきの酔ってる声からは想像できないほど低い声だった。

「口封じしないと俺が殺されるんだ…お前も殺して」

ガシャン!あの人は持っていた酒の瓶で男の頭にフルスイングした。人間の力で振られたとは思えない音が鳴り響いて、男は頭から血を流して倒れた。奥からまた人が来た。

「おいチェン殺してないよな…って」

「あ、ベラ!ごめん!多分死んだ!」

ベラと呼ばれてるさっき会った人は肩を落とし、俺らに聞いてくる

「大丈夫かきみたち」

「あ…はいおかげさまで」

「よし!飲み友よ、飲み行くぞって言いたいとこだけど…だいじょぶか?言ってくれれば家まで連れてくぞ」

「チェン、その前に死体処理しないとだから。申し訳ないが頑張って帰ってくれ、そこの子、しっかり支えてあげてくれ」

「あ、はい」

「いくぞチェン」

「えーー、めんどい〜〜」

「おめぇが殺したんだろが!ったく」

そう言って2人は路地裏に消えていった。彼女が口を開き、

「…とりあえず帰ろう」

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