3話 買い物

「んあ…」

目覚まし時計をつけているわけでもないのに起きた俺は、少し体を起こす。自分の部屋でもないのにこんなによく眠れたのは、おそらくこのふかふかなベットと枕のおかげだろう。俺は枕が変わっても寝れる人だ。ベットからおりたおれはスリッパを履いてないのに気づいてスリッパを履く。

「部屋の中でスリッパ履くの慣れないな…」

カーテンを開けたおれは日差しにうたれ、目をつむる。見えた外には庭があり昨日通ってきたあの大きな花壇と噴水が見えるが、その光景をまだあまり受け入れられていない自分がいる。

「おれほんとに別世界にきたのか…?」

「お目覚めのようですね」

「うお!びっくりした…いつのまに」

音も立てずにドアを開けていたのか全く気づかなかった。これがメイドというものなのか、というか今の聞かれてないよな、あまり聞かれていいものではない気がするし。俺は平然を保ってメイドさんに聞く。

「え…えっと、メ、メイドさん、なにか?」

これは果たして平然を保てているのであろうか。少し手汗が滲む。

「…わたしのことは、スリスと呼んでもらってかまいませんよ。それと朝ごはんができていますのでついてきてください」

「わ、わかりました」

おれはスリスさんの後ろをついていき、階段を使って1階におりた。玄関が見えるが相変わらずでかい。そして、少しするといい匂いがしてきた。つい俺はスリスさんに聞く。

「あ、朝ごはんですか」

「…わたし、言ったはずですが」

おいしそうな匂いにつられてつい聞いてしまった。スリスさんの目つきが鋭い…スリスさんの俺への好感度というのはどうなってしまっているのだろうか。肩を落とした俺はスリスさんについていき、扉を開けたおれはまた驚かされる。

「すご…」

「そこの席でお食べください」

そこの席に座りついつい周りを見渡す。おしゃれなシャンデリアに、高貴さを感じさせる赤い椅子、真っ白なテーブルクロス。

「ほんとにこの家すごいな」

そう思いながら眼前の料理に目を向ける。パンに、これはビーフシチューか、横にはサラダがあった。ホテルの食事みたいだ。そして目の前にある食器を見ておれはスリスさんに聞く。

「スリスさん、彼女は?」

「クラミル様ですか。先にお食べになって、外出の準備をしに行きましたよ」

「………あ」

昨日の寝る前のことを思い出す。そいえばなんかに付き合ってみたいなこと言ってたきがする。だとしたらいつ家出るんだ、何も聞いてないが。その前に用意してくれたご飯を食べないと。

「いただきます!」

勢いよく食べだしたはいいが、あまりガッと食べるのはよくないかと思いゆっくりになる。

そして食べ終わったおれはごちそうさまを言いスリスさんに聞くが

「あれ、いない?」

部屋を出てすぐ、俺はこっちに向かってくるスリスさんを見つけた。どうしたのか聞くと、

「クラミル様からです。少し時間かかるからゆっくりしててー、だそうです」

「わかりました」

「食器は私が片付けておきますので」

「あ、ありがとうございます」

スリスさんが片付けてくれるとのことだし、俺も準備することにするが。部屋まで向かう道のりは急ぐ必要もないから周りがよく見える。こうして見てみると天井が高くて、玄関の白い石のタイルは磨きがかかっているのかピカピカだ

部屋に着いたおれは大きな鏡を見て思う。

「服はどうしよう…」

ひとまずこのボサっとした髪をせめてどうにかしよう。それから少し時間が経ち結局髪は落ち着かせ、服は勝手に着るのもよくないと思いもらったパジャマにした。扉をノックする音が聞こえ扉を開けるとそこには、

「おはよう、昨日は寝れた…って」

「うん?どしたんですか」

「いや、パジャマで行くの?まあ、ある程度外で来ても問題ないくらいのやつだから大丈夫か…」

俺は彼女をみて少しびっくりした。お嬢様なのだしドレスとかみたいな派手なものかと思いきや、短めのズボンに半袖のシャツの上に薄手のパーカーのようなものを着ていて、意外にカジュアルでかつ落ち着いた雰囲気だ。あと、すごい…

「…どこみてんのー」

「あ、すみません」

彼女は少し笑って俺の手を引き玄関まで行く。玄関からでるときスリスさんが見送りにきた。

「いってらっしゃいませ」

「うん、夕方ぐらいには帰ってくるね」

そういうと俺たちは歩きながら少し会話をする。

「今日結構いろんなとこいくから、楽しみにしててね」

「りょ、りょうかいです…」

荷物もちよろしくと言わんばかりの圧をかけてきた彼女の顔は晴れ晴れとしている。門をでて街まで少し下り坂になってる道をゆっくりと歩く。


街までおりてきたおれはこの街の大きさに驚く。こんなに大きな街だったかと思ったが、昨日は空腹と慣れてないこともあり余裕がなかったからだろう。ほえー、となっている俺を彼女が覗き込んでくる。

「口開きっぱなしだね」

「いや…すごいなって」

「ふふん、この街はここらでも一番大きいからね」

なんだか得意げに話す彼女は前を見ずに喋っているせいで、人にぶつかった。

「あ、す、すいません」

「あぁ?」

彼女がぶつかった男はいかにもという感じの悪そうな見た目をしていた。それにもう1人の方は彼女をジロジロみている。

「すいませんでした!」

おれは謝罪して彼女の手を引っ張って早歩きでその2人の間を通り過ぎる。

「あの女綺麗だったな、どうするよ」

「決まってんだろ」


店が多くある通りに出た俺は彼女の手を離して言う。

「前はしっかり見ましょうね…」

「ごめんね、ありがとう助かった」

申し訳なさそうに謝る彼女は少し下を向いていた。

「まあ、そんな絡まれなかったしだいじょぶですよ」

彼女を慰めてまた歩き出し、おれは気になる行き先を聞く。すると彼女は指を指す。

「最初はあそこの店だよ」

指差した先は木でできた穏やかな雰囲気の店だった。

彼女につられて店に入ると、ふんわりとした甘い匂いがしてきた。横を見た俺は理解した。

「パン屋かな?」

「そう!早めにきたのは理由があってね」

そう言うと彼女はトレーとトングを持ち、スタスタと左の方めがけて一直線に歩いて行った。そこに貼ってある紙を見ると、見覚えのあるパンだった。

「これ…おれにくれたやつ?ですか」

「そうなの〜、一日限定で50個しか売ってないんだから買うの大変なんだよ」

そんな大事なパンを俺にくれたのか。しかもその執着を見るに結構楽しみにしてただろうに。

「なんか、ほんとにごめんなさい」

「いいの、それで何食べる?好きなの持ってきていいよ」

「いやほんとに申し訳ないですって…」

「えんりょしないのー、じゃあ私おすすめの買っちゃうぞ」

俺に有無を言わさず彼女は4個ほどのパンを買また彼女は、俺を連れて店を出た。横のベンチに座って彼女は俺におすすめのパンとやらを渡してきた。

「このパンね、中にクリームが入ってて美味しいんだよ」

「…本当に何から何までありがとうございます」

「もーすぐに謝るんだから、冷めちゃうし食べるよ」

一口食べるとそのおいしさにおれは食べる手が止まらなくなり、あっという間に食べ終えてしまった。

「いい食べっぷりだね」

彼女は俺を見て笑うと、その口にチョコがついていた。

「ついてますよ、チョコ」

「え、どこどこ」

「ここです」

俺は彼女の口についてるチョコを手で取る。

「あ、ありがとう」

俺は少しドキッとした。今さらながらこれデートみたいだな、したことないからわからないけど。パンを食べ終わった俺たちは、次の目的地に向かう。


「ここは、服屋?」

彼女につられて少しパン屋から歩いた場所には、少し大きい服屋があった。外装は白いレンガでできていて、入り口の緑の木の扉の横のガラスから店内が少し見える。

「君、服きてなかったじゃん?ついでに私が選んで買ってあげようと思ってね」

「いや、ほんとにそんな…」

そういうと彼女はおれに圧をかけてくる、というか一応着てはいた…布切れ一枚だけど。また遠慮してると言わんばかりの顔は何度目だろうか。ここにはどちらかというとカジュアルな服が多く、ジーンズや服などがある。

「私こっち見てるから、君もなんか見てなよ」

そう言われておれは、彼女のいる方から離れた場所の服をみる。いろんな服をみてすこし重ねてみたりしている最中、俺は目覚めた時のことをふと思い出す。あの、しょくぶつとかはな、とか書いてあった紙があったのが地味に記憶に残っている。まさか俺の手から花がでるとか、そう考え手を見て力をこめてみるが、当然でない。また力を入れると、ブッ

「あ、やべ」

少し目線を左右に向けて誰もいないことに安心したが、少し恥ずかしくなったおれは店の外に出る。座る場所が見当たらず服屋の壁に寄りかかって立ち空を見る。元いた世界と変わらない快晴の空は安心する。

「やっぱ青空っていいな」

ほのぼのとしていると俺の耳にうるさい声が聞こえてくる。

「だからーおれはそんな酔っ払いじゃないっつーの、ヒック!」

「酔うと大声出す癖いい加減直せ、ほら水」

服屋の斜め右には飲食店というより、酒場に近い店があった。まあ酔ってんなと思いつつ、こういう人には絡まれたくないと感じる。それから少し時間が経ち辺りは暗くなってきた。

「もう夕方か…結構時間たってたんだな」

時の流れがいつもより早く感じるのはなぜなのだろうか。もしかして楽しかったのだろうか、時間が早く感じるなんて大人になってからも全然なかったしなんやかんやで初めての感覚なのかもしれない。没頭していたものがなかったおれにはあまりなかった感覚だ。それより思ったことが一つある。

「遅くないか、いくら悩んでるとはいえここまで時間かかるか?」

そう思ったおれは入り口の扉を見た。その瞬間扉が開き男が女の人を連れて走るのが見えた。一瞬見えた服装におれは、

「あのパーカー…まさか」

気づけば俺は走っていた。

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